複合障害による歩行困難事例における切断肢用杖の導入による効果

【緒言】上肢及び下肢切断後の義肢・装具に関する報告は数多くあり,様々な種類の義肢が実用化されている.しかし,脊髄損傷や多発外傷を伴う事例についての報告はほとんどなく,高齢者の切断後のリハビリテーションに関してはPADを対象としたものがほとんどを占める.また,上肢切断に関する義肢・装具の報告も物品操作が中心であり,杖の使用など荷重を伴う動作に関する報告は見当たらない.そこで,今回は複合障害による歩行困難事例に対して切断肢用の杖を作成し,歩行及びADLの改善に至ったので報告する.【基本情報】70歳男性.診断名:頸髄損傷(椎弓固定術).左上肢切断.右膝関節靭帯多発損傷(保存).障害名:右上下肢不全麻...

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Published in九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 Vol. 2016; p. 150
Main Authors 篠崎, 明子, 大曽, 史朗, 松永, 康弘, 磯, 直樹, 磯, ふみ子, 松本, 康宏
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 九州理学療法士・作業療法士合同学会 2016
Joint Congress of Physical Therapist and Occupational Therapist in Kyushu
Subjects
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ISSN0915-2032
2423-8899
DOI10.11496/kyushuptot.2016.0_150

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Summary:【緒言】上肢及び下肢切断後の義肢・装具に関する報告は数多くあり,様々な種類の義肢が実用化されている.しかし,脊髄損傷や多発外傷を伴う事例についての報告はほとんどなく,高齢者の切断後のリハビリテーションに関してはPADを対象としたものがほとんどを占める.また,上肢切断に関する義肢・装具の報告も物品操作が中心であり,杖の使用など荷重を伴う動作に関する報告は見当たらない.そこで,今回は複合障害による歩行困難事例に対して切断肢用の杖を作成し,歩行及びADLの改善に至ったので報告する.【基本情報】70歳男性.診断名:頸髄損傷(椎弓固定術).左上肢切断.右膝関節靭帯多発損傷(保存).障害名:右上下肢不全麻痺.現病歴:船上で漁師の仕事中に碇の引き上げに巻き込まれ受傷.救急搬送され,術後に回復期病院へ転院し,受傷7ヶ月後に自宅退院となった.自宅は斜面地で階段あり.外出時は2人介助で抱えて車まで搬送.【初期評価】精神機能:HDS-R;30点.HADS;抑うつ11点,不安9点.閉じこもり傾向.身体機能:MMT;(右)上肢3~4,手指2~3,下肢2~4.過緊張(左)上肢4,下肢4.表在感覚;右上下肢軽度鈍麻.歩行:屋内;4点歩行器にて自立.Knee Brace使用.右下肢は分回し動作で踏出し可能.立脚期は過伸展となり,右上肢は過緊張となる.右上肢にて歩行器使用は可能だが杖は不可.屋外;不可.TUG;93秒.BBS:30点.ADL:食事;右手スプーンで自立だが拙劣.起居・移乗;介助バー使用し自立.トイレ自立.更衣介助.FIM:80点.要介護5.介護サービスには消極的.【介入の基本方針】自宅内移動は自立しているが,外出時は全介助であり,歩行能力の改善と介助量の軽減を目的に切断肢用杖を検討し歩行方法の検討を行った.【介入方法】杖作成について:先行研究の簡易型装具を参考に作成した.ペットボトルをカットして上腕断端部のソケットに使用し,柄の部分は塩化ビニールのパイプを使用し,スプリント材で連結し補強した.杖先ゴムは市販品を装着した.また,ソケットが使用中に外れないようアームスリングのように肩甲帯と体幹上部にベルトで固定した.プログラム:左上肢の断端練習を開始し,同時に左上肢をADL場面等で積極的に使用するよう指導した.さらに,左上肢への荷重練習を実施し断端部の強化に努めた.その後,作成した杖を使用し,自宅及び屋外と段階的に歩行練習を実施した.介入頻度は訪問リハビリテーションにて週2~3回の介入を実施し,約4ヶ月間に渡って継続して実施した.【結果】精神機能:HADS;抑うつ6点,不安5点.身体機能:著変.耐久性は改善.歩行:屋内;著変.一部伝い歩き可能.屋外:切断肢用杖を使用し,監視レベルにて可能.階段昇降も可能となった.左上腕断端部の擦過傷・水疱形成は.荷重は6kg程度まで支障なく可能.TUG;60秒.BBS:36点.ADLは起居・移乗自立.更衣が一部可能となった.FIM:92点.要介護3.ショートステイ等を月5回程度利用.【考察】今回,簡易的に切断肢用の杖を作成し,完全自立ではないものの,歩行能力の改善が認められ,階段昇降を含めた屋外歩行が可能となった.これにより,閉じこもり傾向だった事例が意欲的に外出へも取り組むことが可能となり,介護保険サービスの利用にも繋がったと考えられる.しかしながら,あくまで簡易的なものであり,外観や自力での装着の問題もあり,今後は義肢の検討も含めて支援していく必要がある.【倫理的配慮,説明と同意】今回の報告については,本人及び家族に報告の目的を説明し同意を得ており,利益相反に関する事項はない.
ISSN:0915-2032
2423-8899
DOI:10.11496/kyushuptot.2016.0_150