地域在住高齢者の杖使用の有無に関係する要因の検討

【目的】身体機能の低下した高齢者は,杖の使用によって身体活動や社会参加が増加する。一方,杖の使用が転倒リスクの増加と関連していることや,活動量の減少につながることも示されている。したがって,杖は様々な能力を考慮した上で処方されるべきである。そこで本研究は,杖使用の有無に関係することが予想される包括的な変数から高齢者の杖使用の有無に関係する要因を検討することとした。本研究によって,杖を処方する際に注目すべき機能が明らかになり,今後の高齢者リハビリ テーションに貢献すると考える。 【方法】本研究は横断研究である。対象は体力測定会に参加した地域在住高齢者とした。除外基準は64歳以下の者,歩行に介助が...

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Published inKyushu physical therapist Congress Vol. 2024; p. 118
Main Authors 坂本, 飛鳥, 藤原, 和彦, 大川, 裕行, 鎌田, 實, 大田尾, 浩, 保坂, 公大, 釜﨑, 大志郎, 八谷, 瑞紀, 溝上, 泰弘, 久保, 温子, 北島, 貴大
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会 2024
Kyushu Physical Therapy Association
Subjects
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ISSN2434-3889
DOI10.32298/kyushupt.2024.0_118_2

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Summary:【目的】身体機能の低下した高齢者は,杖の使用によって身体活動や社会参加が増加する。一方,杖の使用が転倒リスクの増加と関連していることや,活動量の減少につながることも示されている。したがって,杖は様々な能力を考慮した上で処方されるべきである。そこで本研究は,杖使用の有無に関係することが予想される包括的な変数から高齢者の杖使用の有無に関係する要因を検討することとした。本研究によって,杖を処方する際に注目すべき機能が明らかになり,今後の高齢者リハビリ テーションに貢献すると考える。 【方法】本研究は横断研究である。対象は体力測定会に参加した地域在住高齢者とした。除外基準は64歳以下の者,歩行に介助が必要な者,歩行器や車椅子を使用している者,欠損値のある者とした。杖の使用の有無は,日常生活で杖を使用しているかで判断した。身体機能は,立位での足指圧迫力,握力,膝伸展筋力,30秒椅子立ち上がりテスト (CS-30),開眼片脚立ち時間を評価した。その他にmini-mental state examination (MMSE),抑うつ状態,転倒恐怖感,転倒歴を評価した。統計処理は,杖使用の有無を従属変数とした2項ロジスティック回帰分析を実施した。Model 1は立位での足指圧迫力,握力,膝伸展筋力,開眼片脚立ち時間,MMSE,抑うつ状態,転倒恐怖感,転倒歴を独立変数に投入した。Model 2では性別と年齢を投入し交絡の調整を図った。 【結果】分析対象者は,除外基準に該当した83名を除いた杖使用群108名 (77±7歳,女性69%),杖非使用群52名 (83±6歳,女性79%)であった。交絡を調整した2項ロジスティック回帰分析の結果,杖使用の有無には開眼片脚立ち時間[オッズ比:0.82 (0.72-0.93)]と抑うつ状態[オッズ比:1.98 (1.08-3.66)]が有意に関係していた。 【考察】開眼片脚立ち時間は,転倒リスクを判定する有用な評価方法であることが報告されている。杖は,バランス能力の低い高齢者の日常生活をサポートし,転倒を減らすことが示されている。本研究結果とこれまでの先行研究を踏まえると,バランス能力が低下している高齢者には杖を処方する必要性が示された。抑うつ状態になると,歩行中の姿勢制御が困難になる。システマティックレビューでは,抑うつ傾向がバランス能力や歩行能力と関連していることが明らかにされている。我々の研究結果を含めた知見は,うつ状態の高齢者はバランス能力や歩行能力が低下している可能性があるため,杖の処方が必要であることを示している。本研究の興味深い点は,筋力や認知機能よりも開眼片脚立ち時間や抑うつ状態が高齢者の杖使用の有無に関係したことである。バランス能力の低下や抑うつ状態が確認された高齢者には杖の処方を前向きに検討するとともに,筋力や認知機能が低下している高齢者への杖の処方は慎重に判断する必要性があると考える。 【結語】本研究の結果,高齢者の杖使用の有無にはバランス能力と抑うつ状態が関係していることが明らかになった。杖の処方を検討する際には,特にバランス機能や抑うつ状態を評価する必要性が示された。 【倫理的配慮】対象者には,研究の内容と目的を説明し,理解を得たうえで同意を求めた。本研究への参加は自由意志であり,参加を拒否した場合でも不利益にならないことを説明した。また,対象者は大学生であったため,成績には影響しないことを説明した。本研究は西九州大学倫理審査委員会の承認 (23TXV20)を得て実施した。
Bibliography:O18-2
ISSN:2434-3889
DOI:10.32298/kyushupt.2024.0_118_2