腰椎変性すべり症患者の歩行持久力に影響を与える因子について

【はじめに】腰椎変性すべり症は、椎間板の退行変性により椎間関節の不安定性が生じ、椎骨が転位し、脊柱管の狭窄を呈する腰椎疾患である。その特徴として、下肢神経症状を伴う歩行障害が出現し、連続歩行距離の減少など、歩行耐久性が低下しやすい。腰椎変性すべり症の理学療法の目的に、歩行持久力の改善が挙げられるが、機能障害と歩行持久力がどのように関連しているかは、不明な点が多く、腰椎変性すべり症患者の歩行持久力向上に向けた理学療法アプローチは確立されていないのが現状である。そこで、本研究の目的は、下肢神経症状を呈した腰椎変性すべり症患者の歩行持久力と機能障害との関連性を明らかにすることである。【方法】対象は、...

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Published in九州理学療法士学術大会誌 p. 43
Main Authors 奥野, 由唯, 島崎, 功一, 迫田, 健一, 豊永, 修輔, 菅原, 剛, 和田, 政範, 山口, 佑矢, 福毛, 真澄, 須堯, 敦史
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会 2021
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Summary:【はじめに】腰椎変性すべり症は、椎間板の退行変性により椎間関節の不安定性が生じ、椎骨が転位し、脊柱管の狭窄を呈する腰椎疾患である。その特徴として、下肢神経症状を伴う歩行障害が出現し、連続歩行距離の減少など、歩行耐久性が低下しやすい。腰椎変性すべり症の理学療法の目的に、歩行持久力の改善が挙げられるが、機能障害と歩行持久力がどのように関連しているかは、不明な点が多く、腰椎変性すべり症患者の歩行持久力向上に向けた理学療法アプローチは確立されていないのが現状である。そこで、本研究の目的は、下肢神経症状を呈した腰椎変性すべり症患者の歩行持久力と機能障害との関連性を明らかにすることである。【方法】対象は、腰椎変性すべり症と診断され、当院に2020年4月から2021年3月に入院した初回腰椎除圧術・腰椎固定術予定患者52名のうち、本研究に同意を得た35 名(年齢71.3 ± 9.9 歳、男性15 名、女性20 名)とした。手術前より、自力歩行ができない者、呼吸器疾患、循環器疾患を有する者は除外とした。測定内容は、6 分間歩行距離(6MWD)、膝伸展筋力を体重で除した膝伸展筋力体重比とし、その内、筋力の強い方を、強側膝伸展筋力、弱い方を、弱側膝伸展筋力とした。測定には、徒手筋力計(モービィ、酒井医療社製)を用い、固定ベルトを使用して大腿四頭筋の等尺性膝伸展筋力を測定した。動的バランス評価にFourSquare Step Test(FSST)、入院前の下肢痛、腰痛、下肢の痺れの評価にはVisual Analogue Scale(VAS) を使用した。測定は、入院期間中の手術前日に全て行った。6MWD と年齢を含む測定値の相関関係をPearsonの積率相関係数、Spearman の順位相関係数を用いて確認後、6MWD を従属変数、単相間分析にて有意な相関関係を認めた測定値を独立変数として、ステップワイズ法による重回帰分析を行った。統計学的有意水準は危険率5%とした。【結果】6MWD と有意な相関関係を示したのは、年齢(r = -0.42)、FSST(r=-0.79)、強側膝伸展筋力(r=0.28)、弱側膝伸展筋力(r=0.22) であった。各VAS には相関関係は認められなかった。重回帰分析では、FSST、強側膝伸展筋力が抽出され、FSST( β =-0.742,p < 0.001)、強側膝伸展筋力( β =0.294,p=0.001)、モデルの調整済み決定係数は0.794 (p < 0.001) であった。【考察】腰椎変性すべり症の歩行持久力については、各VAS との関連性は無く、FSST、強側膝伸展筋力との関連性が認められた。また、神経因性の筋力低下が比較的強く影響していると考えられる弱側膝伸展筋力は、6MWD の関連因子として抽出されなかった。つまり、腰椎変性すべり症の患者においては、動的バランス機能、特に下肢神経症状が強く出現していない側の下肢筋力が維持されれば、歩行持久力には影響しないことが示された。今回の結果から、腰椎変性すべり症患者の歩行持久力の維持向上には、腰痛、下肢痛、下肢痺れ、弱側膝伸展筋力への理学療法アプローチより、神経症状とは直接関連しないバランス機能や強側膝伸展筋力への理学療法アプローチが、歩行持久力の維持向上に繋がると示唆された。また、本研究の結果から感覚障害のみであれば、歩行等のADL 低下に結びつく可能性は低いことが明らかとなった。【倫理的配慮,説明と同意】本研究における対象者の個人情報の取り扱いについては、入院前に十分に説明を行い、同意を得た。また、研究の実施においては長崎労災病院倫理委員会の承認( 承認番号:01025) を得て行った。
ISSN:2434-3889
DOI:10.32298/kyushupt.2021.0_43