大腿骨転子部骨折術後の急性期リハビリテーションにおける歩行練習開始の遅延因子の検討
【はじめに, 目的】大腿骨転子部骨折術後の急性期リハビリテーション( 以下, 術後リハ) における歩行練習の開始遅延( 以下, 歩行遅延) の原因は, これまで検討されていない. 本研究の目的は, 術前情報を用いてその遅延因子を検討することである.【方法】研究デザインは後ろ向き観察研究である. 対象を2017 年4 月から2021年12 月までに当院で大腿骨転子部骨折に対する骨接合術を受け, 術後リハを行った110 例のうち, 除外基準に該当しない82 例とした. まず, 術後の歩行許可から歩行練習開始までの日数( 以下, 歩行所要日数) を調べ,1 日以内であった順調群(n=25),2日以上...
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Published in | 九州理学療法士学術大会誌 p. 86 |
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Main Authors | , , , , , , , , , |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
2022
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Summary: | 【はじめに, 目的】大腿骨転子部骨折術後の急性期リハビリテーション( 以下, 術後リハ) における歩行練習の開始遅延( 以下, 歩行遅延) の原因は, これまで検討されていない. 本研究の目的は, 術前情報を用いてその遅延因子を検討することである.【方法】研究デザインは後ろ向き観察研究である. 対象を2017 年4 月から2021年12 月までに当院で大腿骨転子部骨折に対する骨接合術を受け, 術後リハを行った110 例のうち, 除外基準に該当しない82 例とした. まず, 術後の歩行許可から歩行練習開始までの日数( 以下, 歩行所要日数) を調べ,1 日以内であった順調群(n=25),2日以上を要した遅延群(n=57)の2群に分けた.歩行練習開始日の定義は「補助具・介助者の有無や種類, 距離を問わず歩行が実施できた日」とし, 車椅子などによる離床は歩行練習開始とみなさなかった.続いて術前情報として,診療録より年齢,性別,手術待機日数,BMI,受傷前独歩の可否, Cockcroft-Gault の式によるクレアチニンクリアランス( 以下Ccr) ,Geriatric Nutritional Risk Index および既往歴を集めた. 既往歴は認知症,糖尿病,高血圧症(以下HT),慢性心不全(以下CHF),慢性腎臓病(以下CKD), 運動麻痺および手術を要した下肢疾患とした. なお, 術前の改訂長谷川式簡易知能評価スケールが21 点未満の症例は認知症の既往ありとみた. 取得した情報の2 群間の比較にはχ2 独立性の検定,Fisher の正確確率検定,2 標本t 検定, およびMann-Whitney の検定を用いた. 次に, 歩行遅延の有無を目的変数に, 有意差のあった項目を説明変数にして多重ロジスティック回帰分析を適用し, これらに差があるかどうかを検討した. 説明変数の選択にはAIC に基づくステップワイズ法を用いた. 解析結果は尤度比検定で判断し, 選択された各説明変数のオッズ比( 以下OR) とその95% 信頼区間( 以下95%CI) も求めた. また,Hosmer-Lemeshow の検定により適合度も評価した. 統計解析にはWindows 版R4.2.1(CRAN, freeware),R コマンダー2.7-1 を用い, Hosmer-Lemeshow の検定にはResource Selection パッケージを利用した. 有意水準はp=0.05 とした.【結果】歩行所要日数は,遅延群で有意に長かった(p<0.01,中央値:順調群1,遅延群5). また, 遅延群においてCHF,CKD( ともにp<0.05),HT, 受傷前独歩不可,認知症が有意に多かった(いずれもp<0.01).また,Ccrが有意に低かった(p<0.01). 多重ロジスティック回帰分析での尤度比検定の結果はp<0.01 で有意であり, 受傷前独歩不可(OR:4.03,95%CI:1.29-13.55), 認知症(OR:4.76,95%CI:1.56-16.02),CHF(OR:4.48,95%CI:0.68-89.5),CKD(OR:4.22,95%CI:0.63-84.74) が選択された.Hosmer-Lemeshow の検定ではp=0.3993 と良好な適合度であった.【結論】受傷前独歩不可および認知症,CHF,CKD の既往は, 術後リハにおける歩行開始の遅延因子である可能性がある。今後はより大きなサンプルサイズでの検討と長期的な転帰への影響の調査が必要である.【倫理的配慮,利益相反】ヘルシンキ宣言に基づきデータは匿名化し, 十分に個人情報の保護に配慮した. |
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Bibliography: | P-14 |
ISSN: | 2434-3889 |
DOI: | 10.32298/kyushupt.2022.0_86 |