両側前頭葉損傷後に両下肢の随意運動と歩行運動が解離した症例
【はじめに】前頭葉には一次運動野,高次運動野などの運動関連領域が存在する.特に高次運動野は直接的な運動制御よりも開始や維持などを含めた高次の運動遂行過程機能を有することが知られている.今回,両側前頭葉に広範な損傷を呈した症例を経験した.その臨床所見は,両下肢の随意的な運動が全く不能でありながら,自動的な歩行運動は可能という症状を呈した.高次運動野における随意運動の発現機構,歩行運動における神経系の機能的役割が背景に存在するものと考えられたので報告する. 【症例】34才女性,右手利き.2004年12月くも膜下出血発症,両側前大脳動脈領域に梗塞を伴い,2005年1月前交通動脈瘤頚部クリッピング術施...
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Published in | 関東甲信越ブロック理学療法士学会 Vol. 25; p. 10 |
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Main Authors | , , |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
2006
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Subjects | |
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ISSN | 0916-9946 2187-123X |
DOI | 10.14901/ptkanbloc.25.0.10.0 |
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Summary: | 【はじめに】前頭葉には一次運動野,高次運動野などの運動関連領域が存在する.特に高次運動野は直接的な運動制御よりも開始や維持などを含めた高次の運動遂行過程機能を有することが知られている.今回,両側前頭葉に広範な損傷を呈した症例を経験した.その臨床所見は,両下肢の随意的な運動が全く不能でありながら,自動的な歩行運動は可能という症状を呈した.高次運動野における随意運動の発現機構,歩行運動における神経系の機能的役割が背景に存在するものと考えられたので報告する. 【症例】34才女性,右手利き.2004年12月くも膜下出血発症,両側前大脳動脈領域に梗塞を伴い,2005年1月前交通動脈瘤頚部クリッピング術施行.発症後71日で当センター入院. 【画像所見】CT(発症後8週)で両側の前大脳動脈領域,前頭極内側部を中心として低吸収域を認めた.特に右は補足運動野を大きく含んでいた. 【神経・神経心理学所見(発症後15週)】運動麻痺;両側上肢・手指認めず,両下肢は精査困難.腱反射;左右差および亢進.病的反射;陰性.感覚障害;再現性低く判別困難.MMSE20/30,失見当識,注意障害を認めた.簡易前頭葉機能検査(FAB)13/18.失語症軽度.両上肢に本能性把握反応・道具の強迫的使用を認めた.身体失認,半側空間無視;陰性.見当識障害のため状況に不適切な言動が多くみられたが,検査訓練の指示理解は概ね保たれており,下肢運動以外の協力動作は可能であった. 【下肢の運動障害】両下肢の随意運動は姿勢や内的・外的誘導に関わらず困難であった.介助移乗・立位で両下肢の支持的反応は認められなかった.サドル付き歩行器を用いた歩行場面に限り両下肢運動が出現した.表面筋電図では,随意運動指示の際に筋活動は記録されなかったが,歩行時は下肢主要四筋に歩行周期にほぼ合致した筋活動が確認された. 【考察】本症例は,画像所見上で明らかな一次運動野の損傷は認められず検査上も錐体路徴候は認めなかった.このため,下肢の運動障害はいわゆる運動麻痺とは異なるものと考えられた.一方,画像所見,両上肢の病的把握現象などの出現から補足運動野をはじめとした前頭葉内側の両側高次運動野の損傷は明らかであった.補足運動野は随意運動の発現,特に運動開始の機構に関与することが指摘されている.本症例の両下肢の随意運動障害は,両側前頭葉内側領域の損傷による随意運動の開始困難によるものと考えられた.一方,歩行器使用時に半ば自動的な両下肢運動が発現したことは,中枢神経系の下位組織(脳幹や小脳)に存在が推察されている歩行誘発野の働きによる可能性が考えられた. |
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Bibliography: | 10 |
ISSN: | 0916-9946 2187-123X |
DOI: | 10.14901/ptkanbloc.25.0.10.0 |