実験的肉芽腫炎症におけるサイトカインとNOの役割

肉芽腫性炎症では, その初期から, マクロファージを主体とした単核白血球の炎症部位への浸潤が巣状に, すなわちある点を中心に集中的に起こることが特徴的である. なぜこのような特殊な形の慢性炎症が起こるのだろうか. こうした疑問に対して, 結核や寄生虫感染モデルを用いた多くの研究がなされた結果, 肉芽腫形成は, 主として2種類の異なった機序によって惹起されることがわかってきた1). すなわち, 細胞性免疫反応の結果起こってくる過敏型(hypersensitive type)肉芽腫と, 異物または侵入物に対する非免疫的一次反応の結果起こる異物型(foreign body type)肉芽腫である....

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Published in炎症 Vol. 16; no. 3; pp. 171 - 179
Main Authors 辻, 美智子, 吉田, 彪
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本炎症・再生医学会 1996
日本炎症学会
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ISSN0389-4290
1884-4006
DOI10.2492/jsir1981.16.171

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Summary:肉芽腫性炎症では, その初期から, マクロファージを主体とした単核白血球の炎症部位への浸潤が巣状に, すなわちある点を中心に集中的に起こることが特徴的である. なぜこのような特殊な形の慢性炎症が起こるのだろうか. こうした疑問に対して, 結核や寄生虫感染モデルを用いた多くの研究がなされた結果, 肉芽腫形成は, 主として2種類の異なった機序によって惹起されることがわかってきた1). すなわち, 細胞性免疫反応の結果起こってくる過敏型(hypersensitive type)肉芽腫と, 異物または侵入物に対する非免疫的一次反応の結果起こる異物型(foreign body type)肉芽腫である. しかし, 結核をはじめとする多くの肉芽腫性炎症は, 両者が複雑に絡み合った混合型であることから, 肉芽腫形成のメカニズムの解明には, 両者の反応を分離して解析することが不可欠と考えられる. そこで, 筆者らは, 過敏型肉芽腫と異物型肉芽腫の反応を分離して解析する系として, アガロース, あるいはデキストラン粒子をマウスの気管内に注入して惹起する, 実験的肉芽腫モデルを用いて研究を行ってきた. その結果, 過敏型肉芽腫モデルおよび異物型肉芽腫モデルの両方の系において, 肉芽腫がピークとなるときに一致して, IL-1が高いピークで検出されること2), また, IL-2やIFNγなどのリンフォカインを結合したビーズを気管内に注入しても肉芽腫反応は惹起されないが, IL-1あるいはTNFαを結合させたビーズを気管内に注入すると, 強い肉芽腫反応が惹起されることなどを報告し3), 肉芽腫形成のtriggerとしての, IL-1を中心としたモノカインの重要性を明らかにしてきた. 一方, マウスにおけるBCG感染に対する自然抵抗性は, βcg遺伝子に支配されることが報告されている4~6). βcg遺伝子は, マウスのchromosome 1に存在し(r:抵抗性, s:感受性), その生物学的特性は, 結核菌感染初期における殺結核菌能である. すなわち, r/rおよびr/sの遺伝子型を示すマウスは, 表現型として結核菌増殖抑制(抵抗性)を示し, s/sの遺伝子型を有するマウスは, 表現型として結核菌増殖増強(感受性)を示す. さらに興味深いことに, この遺伝子の支配は, たんにBCGやLeishmania感染時の肉芽腫形成についてのみ及んでいるのではなく, 異物型肉芽腫形成をも同じように支配していることがわかっている7). こうしたことから, Bcg遺伝子の表現型は, マクロファージの機能の違いにあることが推察され, その可能性を担う因子として近年注目されているのが, マクロファージによる抗菌因子の一つのnitric oxide(NO)である8, 9). すなわち, マクロファージには, 誘導的に発現される誘導性nitric oxide synthase(iNOS)が存在し, L-アルギニンを基質として, NOをはじめとするreactive nitrogen intermediates(RNI)が産生される. このRNIは, mycobacterium bovisやLeishmania majorをはじめとする細胞内寄生体の殺菌や増殖抑制において重要な役割を担うことから, その産生能の差が, これらの寄生体による感染への抵抗性を左右している可能性が示唆されている10~13). そこで, 本研究では, 異物型肺肉芽腫モデルを用いて, Bcg遺伝子の表現型の異なる系のマウスにおいて, モノカインおよびNO産生にいかなる差異が存在するかについての検討を試みた.
ISSN:0389-4290
1884-4006
DOI:10.2492/jsir1981.16.171