一時的な裸地に生育する絶滅危惧種キタミソウの種子繁殖特性

絶滅危惧IA類の植物であるキタミソウについて,自生地における種子生産,制御環境下での種子発芽に対する温度・光・冠水条件の影響および成長・繁殖特性を調べた.茨城県内の自生地では,農業用の堰の落水に伴って一時的に生じる裸地に約1,500m^2にわたって密な群落が成立し,1m^2あたり約90,000個の種子が生産されていた.発芽実験の結果,種子の発芽可能温度域は8-32℃程度と広く,高温あるいは低温によって誘導・解除されるタイプの休眠は認められなかった.また種子発芽に対する変温要求性は認められなかったが,光要求性が大きく,暗条件および緑陰条件下では発芽が強く抑制された.また0.5cmより深い土壌中に...

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Published in保全生態学研究 Vol. 7; no. 1; pp. 9 - 18
Main Authors 西廣, 淳, 永井, 美穂子, 安島, 美穂, 鷲谷, いづみ
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 一般社団法人 日本生態学会 2002
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Summary:絶滅危惧IA類の植物であるキタミソウについて,自生地における種子生産,制御環境下での種子発芽に対する温度・光・冠水条件の影響および成長・繁殖特性を調べた.茨城県内の自生地では,農業用の堰の落水に伴って一時的に生じる裸地に約1,500m^2にわたって密な群落が成立し,1m^2あたり約90,000個の種子が生産されていた.発芽実験の結果,種子の発芽可能温度域は8-32℃程度と広く,高温あるいは低温によって誘導・解除されるタイプの休眠は認められなかった.また種子発芽に対する変温要求性は認められなかったが,光要求性が大きく,暗条件および緑陰条件下では発芽が強く抑制された.また0.5cmより深い土壌中に埋められた種子は生存力を保ちつつも発芽せず,自生地において土壌シードバンクを形成する可能性が示唆された.実験室で育成した個体は播種から約1ヶ月でクローン成長と有性繁殖を開始し,閉鎖花と自殖能のある開放花を咲かせて種子を生産することが明らかになった.これらの性質から,キタミソウは水位の低下に伴って生じる一時的な裸地を利用して生活史を完結させ,土壌シードバンクを形成する戦略をもつことが推測される.
ISSN:1342-4327
2424-1431
DOI:10.18960/hozen.7.1_9