胆汁排泄障害時の経腸栄養に卵黄レシチン配合流動食を使用した1例

急性胆囊炎の治療では,高齢者は臓器障害の併存や長期臥床のため,手術困難で経皮経肝胆囊ドレナージ(PTGBD)を施行する場合も多い.ドレナージが奏功すれば,食事開始も可能となるが,PTGBDは胆汁が外瘻化されており,脂肪の吸収障害も懸念される.脂肪の乳化剤である卵黄レシチンは胃酸による低pH条件下でもエマルションが壊れにくく,乳化状態が安定している.胆管結紮ラットでの検討でも卵黄レシチンの乳化液が他の乳化剤を使用した乳化液よりも脂質吸収に優れ,下痢が少ない報告がある.卵黄レシチンによる乳化は,胆管外瘻例などの胆汁排泄障害時の栄養改善に寄与する可能性が考えられる.今回,急性胆囊炎に対するPTGBD...

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Published in日本老年医学会雑誌 Vol. 55; no. 3; pp. 411 - 416
Main Authors 明石, 哲郎, 松本, 一秀, 高松, 悠, 橋本, 理沙, 高岡, 雄大, 大野, 彰久, 中村, 由佳里
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 一般社団法人 日本老年医学会 25.07.2018
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Summary:急性胆囊炎の治療では,高齢者は臓器障害の併存や長期臥床のため,手術困難で経皮経肝胆囊ドレナージ(PTGBD)を施行する場合も多い.ドレナージが奏功すれば,食事開始も可能となるが,PTGBDは胆汁が外瘻化されており,脂肪の吸収障害も懸念される.脂肪の乳化剤である卵黄レシチンは胃酸による低pH条件下でもエマルションが壊れにくく,乳化状態が安定している.胆管結紮ラットでの検討でも卵黄レシチンの乳化液が他の乳化剤を使用した乳化液よりも脂質吸収に優れ,下痢が少ない報告がある.卵黄レシチンによる乳化は,胆管外瘻例などの胆汁排泄障害時の栄養改善に寄与する可能性が考えられる.今回,急性胆囊炎に対するPTGBD後に,卵黄レシチン配合流動食による経腸栄養で良好な経過をえた症例を経験したので報告する.症例は80歳,男性.心筋梗塞,認知症の既往あり,胆石性胆囊炎の診断で,保存的治療を開始した.胆囊炎の増悪あり,12病日にPTGBDを施行した.入院後は嚥下不良あり,胃管より経腸栄養を開始するも嘔吐を認めた.画像上,十二指腸下行脚は炎症の波及により浮腫状のため,再度絶食とし,グルタミン製剤のみ投与した.胃管からの廃液が減少した23病日より卵黄レシチン配合流動食K-LEC(1 Kcal/ml)200 mlを粘度調整食品REF-P1併用で1日3回投与より開始した.25病日には900 Kcal/日,29病日から食物繊維が付加されたK-5Sを1,200 Kcal/日と増量できた.全身状態も向上し,トランスサイレチンも上昇傾向で,体重も増加した.その後,嚥下訓練により37病日からは経口摂取へと移行できた.絶食期間が長く,胆囊炎の炎症波及に伴う十二指腸通過障害を併発した症例であったが,下痢などの消化器合併症なく順調に経腸栄養投与量を上昇することができた.胆汁排泄障害を伴う病態での卵黄レシチン配合流動食の有用性が示唆された.
ISSN:0300-9173
DOI:10.3143/geriatrics.55.411