オーストリアの政治教育の教師は政治的中立性を どのように理解し実践しているか? ― 日本の社会科教育の再政治化を目指して

本稿は,オーストリアの政治教育の教師の政治的中立性に対する理解と実践を事例に,日本の社会科教育を「再政治化」するために示唆を得ることを目的とする。近年の主権者教育に関する調査によると,多くの学校では選挙制度の理解や模擬選挙の体験に留まっており,子どもが現実社会の問題にふれる機会を提供することは稀であることがわかる。このような主権者教育の「形式化」,ひいては社会科教育の「脱政治化」は,真の主権者,真の民主市民を育成しているとはいえない。そこで,筆者らは,16歳から選挙権を付与し,学校のなかで現実社会の問題を積極的に扱おうとする文化が広まっているオーストリアに注目し,主権者教育の「実質化」,社会科...

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Published in社会科研究 Vol. 92; pp. 1 - 12
Main Authors 渡邉, 巧, 川口, 広美, 草原, 和博, 金, 鍾成
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 全国社会科教育学会 31.03.2020
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ISSN0289-856X
2432-9142
DOI10.20799/jerasskenkyu.92.0_1

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Summary:本稿は,オーストリアの政治教育の教師の政治的中立性に対する理解と実践を事例に,日本の社会科教育を「再政治化」するために示唆を得ることを目的とする。近年の主権者教育に関する調査によると,多くの学校では選挙制度の理解や模擬選挙の体験に留まっており,子どもが現実社会の問題にふれる機会を提供することは稀であることがわかる。このような主権者教育の「形式化」,ひいては社会科教育の「脱政治化」は,真の主権者,真の民主市民を育成しているとはいえない。そこで,筆者らは,16歳から選挙権を付与し,学校のなかで現実社会の問題を積極的に扱おうとする文化が広まっているオーストリアに注目し,主権者教育の「実質化」,社会科教育の「再政治化」のための戦略を考察する。具体的には,日本では学校のなかで現実社会の問題を扱わない理由として用いられる政治的中立性という概念に注目し,「オーストリアの政治教育の教師はそれをどのように理解し実践しているか」に関する事例研究を行う。中等学校で「歴史・社会・政治科教育(歴史と公民の総合科目)」を担当する三人の教師の協力を得て,政治的中立性に関する半構造化インタビューや彼らの授業実践をもとに,上記の問いに対する回答を試みる。結果として,日本の社会科教育の「再政治化」に向けて,以下の四つが示唆された。一つは,社会と教室の距離を縮めていくために,授業のなかに現実社会の問題を論争的に取り上げる必要があること。二つは,政治的中立性に対する柔軟な理解が必要であること。 三つは,教師がゲートキーピング力を高める必要があること。さらに四つは,教師が自らのゲートキーピングを説明する能力を高める必要があること,である。日本とは異なる文脈のオーストリアの事例ではあるが,日本の社会科教師に論争問題学習と政治的中立性に対する新たな理解を提供する。
ISSN:0289-856X
2432-9142
DOI:10.20799/jerasskenkyu.92.0_1