床での立ち座り練習が自己効力感に与える影響―シングルケースデザインによる予備的検討

【目的】 近年、転倒に関する心理的影響として転倒恐怖が注目されている。転倒恐怖は、活動範囲制限、対人交流減少、quality of life(QOL)低下などを引き起こすことが報告されている。この転倒恐怖に対し、日常生活動作練習等を通じて軽減を試みた報告など散見されるが、床での立ち座り練習との関連を報告したものは少ない。本研究では、床での立ち座り練習が自己効力感の向上に寄与するか、他の身体能力の評価も含めて反復型実験計画(以下、ABA型デザイン)を用いて検証していくこととした。 【方法】 対象は、左大腿骨頚部骨折を発症した70代の女性。転倒受傷後6日目に左股関節人工骨頭置換術を施行。術後44日...

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Published in関東甲信越ブロック理学療法士学会 Vol. 31; p. 36
Main Authors 邑口, 英雄, 平石, 武士(OT), 大谷, 知浩
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会 2012
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ISSN0916-9946
2187-123X
DOI10.14901/ptkanbloc.31.0_36

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Summary:【目的】 近年、転倒に関する心理的影響として転倒恐怖が注目されている。転倒恐怖は、活動範囲制限、対人交流減少、quality of life(QOL)低下などを引き起こすことが報告されている。この転倒恐怖に対し、日常生活動作練習等を通じて軽減を試みた報告など散見されるが、床での立ち座り練習との関連を報告したものは少ない。本研究では、床での立ち座り練習が自己効力感の向上に寄与するか、他の身体能力の評価も含めて反復型実験計画(以下、ABA型デザイン)を用いて検証していくこととした。 【方法】 対象は、左大腿骨頚部骨折を発症した70代の女性。転倒受傷後6日目に左股関節人工骨頭置換術を施行。術後44日目に当院回復期病棟へ入院。入院時、左下肢は全荷重可能で、T字杖歩行は見守りであった。安静時・運動時ともに下肢関節痛や腰痛等は認めなかった。コミュニケーションは良好、改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)は25点であった。測定は入院後5日目(術後49日目)より開始。介入はABA型デザインを用い、第1基礎水準測定期(以下、A1期)、第2基礎水準測定期(以下、A2期)では通常の練習を行い、操作導入期(以下、B期)では、通常の練習時間を短縮し、床での立ち座り練習を15~20分間施行した。立ち座りのために必要とする手支持台の有無は問わず、介助に関しては最小限とした。介入期間は各1週間(連続5日間)とし、計3週間行った。測定項目は、日本語版Modified Falls Efficacy Scale(以下、MFES)、Timed"Up and Go"Test(以下、TUG)、Berg Balance scale(以下、BBS)とし、測定時期は、測定開始前、2週目、3週目、測定終了後の計4回とした。対象者には十分な説明をした後、文書にて同意を得た。 【結果】 A1期の開始前は、MFES:52点、TUG:15.69秒、BBS:54点であった。A1期終了時(2週目)は、MFES:66点、TUG:15.25秒、BBS:55点であった。B期終了時(3週目)は、MFES:116点、TUG:10.46秒、BBS:55点であった。A2期終了時は、MFES:125点、TUG:10.37秒、BBS:55点であった。MFES、TUGに関しては、B期終了時に著明な改善値を示した。 【考察】 床での立ち座り練習は、自己効力感や歩行能力に肯定的な影響があることが示唆された。この要因として、床での立ち座り練習にて生じる身体の固有感覚の変化と、前庭迷路における加速の変化などと視覚の変化が能動的に統合され安定感が得られたのではないかと考えられた。これらが、自己効力感や歩行能力にも反映されたものと考えられた。 【まとめ】 床での立ち座り練習の実践は、自己効力感や身体能力を向上させ生活範囲の拡大に影響する可能性があることが示唆された。
Bibliography:36
ISSN:0916-9946
2187-123X
DOI:10.14901/ptkanbloc.31.0_36