症例から見た大腸癌腹水細胞診の臨床的意義

【緒言】腹水細胞診陽性は胃癌取扱い規約上Stage IVに規定されているが、大腸癌取扱い規約では、腹水細胞診を予後規定因子として評価していない。しかし、腹水細胞診陽性の症例は、いずれ腹膜再発をきたす惧れがあり、腹膜再発症例の予後は不良であることから、予後に影響することが懸念される。  初回手術時に腹膜転移(P)を認めず、腹水細胞診陽性(Cy1)であった直腸癌の1例を報告し、検討を加えた。 【症例と経過】初回手術時44歳、女性。 H14.12月 直腸低位前方切除術を施行。    病理診断)RS, circ, 65×57mm, tub1, ss, n1, H0, P0, Cy1, M0, Stag...

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Published inNihon Nouson Igakukai Gakujyutu Soukai Syourokusyu Vol. 57; p. 327
Main Authors 高橋, 昌宏, 正村, 裕紀, 赤羽, 弘充, 北, 健吾, 久慈, 麻里子, 花本, 尊之, 及川, 太, 柳田, 尚之, 宮城, 久之, 中野, 詩朗
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 一般社団法人 日本農村医学会 2008
THE JAPANESE ASSOCIATION OF RURAL MEDICINE
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ISSN1880-1749
1880-1730
DOI10.14879/nnigss.57.0.327.0

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Summary:【緒言】腹水細胞診陽性は胃癌取扱い規約上Stage IVに規定されているが、大腸癌取扱い規約では、腹水細胞診を予後規定因子として評価していない。しかし、腹水細胞診陽性の症例は、いずれ腹膜再発をきたす惧れがあり、腹膜再発症例の予後は不良であることから、予後に影響することが懸念される。  初回手術時に腹膜転移(P)を認めず、腹水細胞診陽性(Cy1)であった直腸癌の1例を報告し、検討を加えた。 【症例と経過】初回手術時44歳、女性。 H14.12月 直腸低位前方切除術を施行。    病理診断)RS, circ, 65×57mm, tub1, ss, n1, H0, P0, Cy1, M0, Stage IIIa      術後、5FU+lLVを施行。 H15.12月 卵巣腫瘍の診断にて、両側付属器切除術を施行。    病理診断)転移性腫瘍。直腸癌の転移。     術後、5’DFUR+PSKの内服。 H17.12月 右水腎症。PET-CTにて総腸骨動脈周囲リンパ節転移再発。     mFOLFOX6施行。(計13回) H18.12月 子宮癌検診にて細胞診陽性。子宮体癌疑いにて子宮全摘術。開腹時、回腸末端に播種による狭窄を認め、回腸部分切除術を併施。     病理診断)子宮・回腸とも大腸癌の播種浸潤による。 H19. 1月 総腸骨動脈周囲リンパ節転移に対して放射線(50Gy)照射。 H19. 5月 多発肝転移出現。肝動注療法。 H19. 6月 多発肺転移出現。FOLFIRI開始。 H19.10月 Oxycodon処方。 H20. 2月 全身状態悪化し、入院。 H20. 3月 永眠。(術後5年3ヶ月生存) 【考察】腹水中の癌細胞が根付いて、腹膜播種を惹起する事は想像に難くない。即ち、Cy1/P0→P1→P2→P3という経過を辿ると仮定すれば、Cy1は重要な予後規定因子になりうる。 当科における1997年から2006年の大腸癌初回手術症例1093例中、腹水細胞診を提出した251例中24例がCy1であった。このうち腹膜播種のない9例中5例(55.6%)が腹膜再発に至った。 また、腹膜播種を認めた65例の3年生存率は、P1:40.9%、P2:20.0%、P3:4.2%であり、P3で有意に予後不良であった。P2およびP3には5年生存を認めなかった。 本症例では、腹膜再発の結果、卵巣転移、子宮および小腸への浸潤を経て、肝転移及び肺転移をきたして、術後5年余りで不幸の転帰を辿った。Cy1が腹膜再発の起点となったことが推測され、結果的には標準的な化学療法によっても阻止できなかった。 胃癌取扱い規約の改定作業が進んでおり、胃癌においても腹水細胞診の意義の見直しが検討されている。もともとStage IVとされるCy1の胃癌でも予後の良い症例が散見されることから、細胞数や細胞集塊を判定基準に組み込むかどうか検討されている。大腸癌は胃癌に比し、Cy1の予後が良いことから予後規定因子としての評価がなされてこなかったが、大腸癌Cy1症例が腹膜再発に進展する可能性がある以上、症例の蓄積と評価は重要であると考えられる。 【結語】ここ数年の進行再発大腸癌における化学療法の進歩は著しく、新規抗癌剤や分子標的治療が予後の延長に寄与しているが、標準的な化学療法によって腹膜再発を阻止できなかった腹水細胞診陽性大腸癌の1例を報告した。
Bibliography:2J280
ISSN:1880-1749
1880-1730
DOI:10.14879/nnigss.57.0.327.0