長期生存した左心低形成症候群の剖検例

【はじめに】左心低形成症候群(HLHS:Hypoplastic Left Heart Syndrome)は左心系の低形成を示すチアノーゼ型の先天性心疾患(CHD)である。無治療ではductal shock、呼吸不全をきたす。生後早期に死亡する最も予後の悪いCHDのひとつであり、治療の進歩にもかかわらず長期生存例は極めて稀である。今回、24歳で死亡し剖検を行ったHLHSを経験したので、病理学的所見を加えて報告する。 【症例】 24歳男性 【入院までの経過】 生後1か月にHLHSと診断され、8か月時に両側肺動脈絞扼術が行なわれた。ばち指とチアノーゼを認め、SpO2は70%台後半であった。15歳から...

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Published inNihon Nouson Igakukai Gakujyutu Soukai Syourokusyu Vol. 54; p. 259
Main Authors 西尾, 一美, 齋藤, 明子, 小川, 貴久, 西村, 直子, 中島, 伸夫, 安, 在根, 渡辺, 直子, 尾崎, 隆男, 小山, 慎郎, 武藤, 太一朗
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 一般社団法人 日本農村医学会 2005
THE JAPANESE ASSOCIATION OF RURAL MEDICINE
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ISSN1880-1749
1880-1730
DOI10.14879/nnigss.54.0.259.0

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Summary:【はじめに】左心低形成症候群(HLHS:Hypoplastic Left Heart Syndrome)は左心系の低形成を示すチアノーゼ型の先天性心疾患(CHD)である。無治療ではductal shock、呼吸不全をきたす。生後早期に死亡する最も予後の悪いCHDのひとつであり、治療の進歩にもかかわらず長期生存例は極めて稀である。今回、24歳で死亡し剖検を行ったHLHSを経験したので、病理学的所見を加えて報告する。 【症例】 24歳男性 【入院までの経過】 生後1か月にHLHSと診断され、8か月時に両側肺動脈絞扼術が行なわれた。ばち指とチアノーゼを認め、SpO2は70%台後半であった。15歳からは在宅酸素療法を行なっていたが、日常生活に支障はなく、高校卒業後は仕事に就いていた。21歳時に心房粗動での入院歴がある。定期検査では、多血症と高尿酸血症、軽度の蛋白尿、血尿を認めていた。 【入院経過】平成16年1月スーパーで倒れ、救急車で搬送された。直ちに心肺蘇生を行ない、入院となった。意識レベルGCS 3、血圧 170/98mmHg、心拍数 108/分。動脈血pH 6.992、pCO2 96.3mmHg、pO2 22.4mmHg、BE -11.0mmol/L、WBC 11,000/μl、RBC 839×104/μl、Ht 70.4%、Plt 13.3×104/μl、AST 85IU/L、ALT 70IU/L、Na 137mEq/l、K 4.4mEq/l、Cl 102mEq/l。胸部X-pで心拡大(胸郭比76%)、心電図で右室肥大・右軸偏位を認めた。頭部CTでは脳溝に沿ってhigh density areaがみられた。人工換気を行ない、強心剤、脳圧降下剤の投与など全身管理・治療を行なったが、38時間後に死亡した。 【病理所見】著しい心肥大を認め、心尖部は右室で占められていた。左室はやや低形成で容量の狭小化がみられた。大動脈弁は閉鎖し、線維性で索状の上行大動脈と大動脈弓部を認めた。肺循環と体循環は、心室中隔欠損と動脈管開存を介してすべて右室に依存していた(図)。組織学的に左右の心室筋は繊維化が強く、個々の心筋細胞は肥大していた。すべての臓器に多血症と心不全に由来する著しいうっ血を認めたが、肺梗塞、脳梗塞、クモ膜下出血は認めなかった。肝臓は腫大し、組織学的にはうっ血性肝硬変の所見であった。腎のメサンギウム領域の軽度増殖を認めたが、尿細管は正常であった。 【考察】長期生存できたHLHSの剖検例は極めて稀なものである。チアノーゼ型CHDでは、慢性の組織低酸素、二次性の赤血球増加により慢性的な異常を生じ、成人期には、脳梗塞、過粘稠症候群、胆石、冠動脈拡張、高尿酸血症、糸球体硬化症、ばち指など全身多臓器の異常を伴い問題となる。本症例も低酸素血症、多血症、高尿酸血症、蛋白尿、血尿、ばち指などがみられ、病理学的にも全身諸臓器の変化を認めた。以上より、長期間にわたる心筋機能障害が死亡の原因と考えられた。
Bibliography:2I03
ISSN:1880-1749
1880-1730
DOI:10.14879/nnigss.54.0.259.0