高齢者大腿骨近位部骨折,社会的入院の実情
緒言世界でも類を見ぬ少子高齢化に伴い社会の諸問題が表出し,高齢者の医療のあり方が問われている.高齢者医療費を押し上げるとされる「社会的入院」の実情を調査した. 方法2003年1月から2008年3月までに当科で入院,手術治療を行った60歳以上の大腿骨近位部骨折症例のうちretrospectiveに診療録より詳細な経過が把握可能だった症例は174例(男33,女141例,平均82.9歳,平均在院日数51.4日).クリティカルパスに従いカンファレンスで治療上ゴールもしくはプラトーに達した症例につき関係者を交えて面談,退院勧告した日を「退院可能日」とし,以降実際に退院/転院した日までを「社会的入院日数」...
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Published in | Nihon Nouson Igakukai Gakujyutu Soukai Syourokusyu Vol. 57; p. 371 |
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Main Authors | , , , , , |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
一般社団法人 日本農村医学会
2008
THE JAPANESE ASSOCIATION OF RURAL MEDICINE |
Subjects | |
Online Access | Get full text |
ISSN | 1880-1749 1880-1730 |
DOI | 10.14879/nnigss.57.0.371.0 |
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Summary: | 緒言世界でも類を見ぬ少子高齢化に伴い社会の諸問題が表出し,高齢者の医療のあり方が問われている.高齢者医療費を押し上げるとされる「社会的入院」の実情を調査した. 方法2003年1月から2008年3月までに当科で入院,手術治療を行った60歳以上の大腿骨近位部骨折症例のうちretrospectiveに診療録より詳細な経過が把握可能だった症例は174例(男33,女141例,平均82.9歳,平均在院日数51.4日).クリティカルパスに従いカンファレンスで治療上ゴールもしくはプラトーに達した症例につき関係者を交えて面談,退院勧告した日を「退院可能日」とし,以降実際に退院/転院した日までを「社会的入院日数」と定義した.全174例を,「社会的入院日数」が20日以上の「長期群」71例と19日以下の「短期群」103例に群別し種々の要因につき比較,検討した.また「長期群」71例につき,社会的入院長期化の主たる理由を分析した.統計学的検討はMann-WhitneyのU検定,カイ2乗検定を用い,危険率0.05以下を以て有意差ありとした.結果 「長期群」は男:女=9:62,頚部骨折:転子部骨折=24:47,平均年齢84.6歳,平均在院日数78.9日,手術法は人工骨頭:CHS:近位髄内釘:ハンソンピン=19:19:29:4.手術待機4.82日,手術時間49.0分,71例全例が受傷前歩行可能だったが退院時は59例(歩行能再獲得率83.1%).自宅退院:転院=61:10.受傷前自宅生活であった68例の自宅復帰率は89.7%.認知症有病率16.9%,経過中に治療が必要な合併症を生じた症例の割合は25.4%であった.「短期群」は男:女=24:79,頚部骨折:転子部骨折=42:61,平均年齢81.7歳,平均在院日数32.4日,手術法は人工骨頭:CHS:近位髄内釘:ハンソンピン=34:22:38:9.手術待機4.41日,手術時間48.2分,受傷前歩行可能であった93例中56例が退院時歩行可能(歩行能再獲得率60.2%).自宅退院:転院=52:51.受傷前自宅生活65例の自宅復帰率は80.0%.認知症有病率47.6%,合併症を生じた症例の割合は22.3%であった.「長期群」は女性の割合が高く,高年齢.転子部骨折を受傷し骨接合術を受けた症例の割合が高かったが手術待機期間,手術時間に差がなかった.自宅退院症例が多く,歩行能力再獲得率が高かった.認知症有病率は低かったが合併症を生じた症例の割合が高かった.「長期群」71例の退院困難の主たる理由は,「疼痛が高度」「ADL不十分」「合併症の治療が必要」など「治療上の理由」が28例,「施設空きベッド待ちの待機」「自宅改修」など「環境整備」が19例,本人や家族の「転院拒否」が24例であった.詳細を調べると,経済的事情による転院拒否や家族間の意志の相違,施設ベッド数不足などの社会的要因が垣間見られた.考察高齢者医療費抑制のニーズに沿う「社会的入院日数」短縮のため治療成績向上への努力が欠かせないことには論を待たない.合併症対策,疼痛軽減,ADL向上などの不断の努力により「治療上の理由」による長期入院を減ずるべきである.しかし「環境整備」には社会的インフラ整備が必須であり「転院拒否」症例については単にインフォームドコンセントの充実では解決しきれない問題を内包している.今回の検討で,国民のニーズと現行の医療・福祉政策の解離が窺い知れた.中央と地方財政の格差や今後の療養病床削減政策も視野に入れ,これ以上地方農村における「医療崩壊」を加速させないため現場の実情をアピールしていく必要がある. |
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Bibliography: | 2J324 |
ISSN: | 1880-1749 1880-1730 |
DOI: | 10.14879/nnigss.57.0.371.0 |