虚血性腸炎の治療中に高度の凝固異常を呈した直接経口抗凝固薬内服中の高齢患者
症例は85歳の女性である.脳梗塞後のリハビリを目的として他院に入院していた.持続する血性下痢を認めたため当院へ転院となった.腹部造影CTにて,横行結腸左側から直腸にかけて浮腫状の肥厚を認め,粘膜の造影効果が減弱していることから虚血性腸炎と考え,絶食・輸液療法および抗生剤投与にて加療を行った.血便が消失したため,元来内服していたDirect Oral Anti Coagulants(DOAC,edoxaban)を当院入院後5日目より再開した.11日目に行った下部内視鏡検査では,直腸に線状潰瘍及び粘膜に強い浮腫が認められ,下痢も持続していることから絶食・補液管理を継続した.18日目に施行した採血に...
Saved in:
Published in | 日本老年医学会雑誌 Vol. 56; no. 1; pp. 74 - 78 |
---|---|
Main Authors | , , |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
一般社団法人 日本老年医学会
25.01.2019
|
Subjects | |
Online Access | Get full text |
ISSN | 0300-9173 |
DOI | 10.3143/geriatrics.56.74 |
Cover
Summary: | 症例は85歳の女性である.脳梗塞後のリハビリを目的として他院に入院していた.持続する血性下痢を認めたため当院へ転院となった.腹部造影CTにて,横行結腸左側から直腸にかけて浮腫状の肥厚を認め,粘膜の造影効果が減弱していることから虚血性腸炎と考え,絶食・輸液療法および抗生剤投与にて加療を行った.血便が消失したため,元来内服していたDirect Oral Anti Coagulants(DOAC,edoxaban)を当院入院後5日目より再開した.11日目に行った下部内視鏡検査では,直腸に線状潰瘍及び粘膜に強い浮腫が認められ,下痢も持続していることから絶食・補液管理を継続した.18日目に施行した採血にてPT 100秒以上,PT-INR 14.03,APTT 87.5秒と著明に延長,PIVKA-IIも12,469 mAU/mLと著しく高値であったことからビタミンK欠乏に伴う凝固異常と判断した.直ちにビタミンK製剤を投与したところ,凝固異常は速やかに改善した.DOACは一般的に定期的な採血によるモニタリングは不要とされる.しかしながら,絶食管理中,特にDOACなど抗凝固薬を服用している患者では,ビタミンK欠乏を誘因に短期間で急激な凝固異常をきたす可能性があるため,こまめに凝固機能を確認する必要がある.非弁膜症性心房細動,虚血性腸炎とも高齢者に発症しやすい疾患である.今後高齢化が進むにつれて双方とも日常診療で遭遇する頻度は多くなることが予想される.本例は,DOAC内服中に絶食・抗生剤長期投与を行う際の教訓的な症例と考えられたため,ここに報告する. |
---|---|
ISSN: | 0300-9173 |
DOI: | 10.3143/geriatrics.56.74 |