スクリーニング内視鏡検査で発見された無症候性大腸アニサキス症の一例
症例は62歳男性。近医での血液検査にて貧血を指摘されたため、大腸の精査目的で当院消化器内科を受診した。下部消化管内視鏡を施行し、直腸の正常粘膜に食い込んでいる白色調で糸状の虫体を認めた。鉗子にて虫体を摘出し、顕微鏡検査によってアニサキスと診断した。虫体摘出後の問診で、内視鏡検査3日前にタコとカツオの生食をしていたことがわかった。〈BR〉海産魚類を生で摂取する習慣がある本邦において、消化管アニサキス症は比較的高頻度にみられる寄生虫疾患である。原因幼虫はAnisakis simplex、Anisakis physeteris、Pseudoterranova decipiensの3種ある。寄生魚類は...
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Published in | Nihon Nouson Igakukai Gakujyutu Soukai Syourokusyu Vol. 56; p. 47 |
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Main Authors | , , , , , , |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
一般社団法人 日本農村医学会
2007
THE JAPANESE ASSOCIATION OF RURAL MEDICINE |
Subjects | |
Online Access | Get full text |
ISSN | 1880-1749 1880-1730 |
DOI | 10.14879/nnigss.56.0.47.0 |
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Summary: | 症例は62歳男性。近医での血液検査にて貧血を指摘されたため、大腸の精査目的で当院消化器内科を受診した。下部消化管内視鏡を施行し、直腸の正常粘膜に食い込んでいる白色調で糸状の虫体を認めた。鉗子にて虫体を摘出し、顕微鏡検査によってアニサキスと診断した。虫体摘出後の問診で、内視鏡検査3日前にタコとカツオの生食をしていたことがわかった。〈BR〉海産魚類を生で摂取する習慣がある本邦において、消化管アニサキス症は比較的高頻度にみられる寄生虫疾患である。原因幼虫はAnisakis simplex、Anisakis physeteris、Pseudoterranova decipiensの3種ある。寄生魚類はサバ、イカ、アンコウ、サケ、タラ、マス、ニシン、イワシ 、サンマ、アジ、カツオと多種にわたる。年間発生症例は2000~3000例と推定され、発生時期12~3月に多く、7~9月に少ない。〈BR〉アニサキスの成虫は、終宿主であるイルカ、クジラ、オットセイなどの胃壁に寄生し、虫卵が糞便と共に海中へ排出される。海中で孵化して第二期幼虫まで成長し、中間宿主であるオキアミに摂取される。オキアミの体内で第三期幼虫まで成長し、サバやイカがこのオキアミを摂取する。これらが終宿主に食べられると成虫にまで成長するが、ヒトに食べられると成虫にはなれずに第四期幼虫となり、胃壁や腸壁に侵入して激しい腹痛をおこす。〈BR〉病型は胃アニサキス症、腸アニサキス症、腸管外アニサキス症(肺、肝、皮下等)の三つに分類され、大部分は胃アニサキス症が占める。発症様式には緩和型と劇症型がある。初感染時の虫体の刺入による刺激で発症する緩和型と、感作後の再感染によるアレルギー反応で発症する激症型に分類されるが、腸アニサキスは激症型が多い。_I_型アレルギーによりIgE抗体価が上昇し、_III_型アレルギーによりIgG抗体価が上昇する為、抗体価が陽性であれば診断の補助となり有用である。魚類の生食の機会が多い地域では健常者のIgE抗体陽性率が高い事や、発症早期は上昇しない事などから、急性期における抗体価測定による診断は事実上困難との考えもある。〈BR〉根本治療は内視鏡下に幼虫を摘出する事以外には無いが、60℃1分以上又は-20℃24時間以上で死滅する為、予防は可能である。〈BR〉寄生部位の多くは胃であり、下部消化管は0.5%に過ぎず、中でも大腸はさらに希少である。内視鏡検査によって虫体を摘出できた大腸アニサキス症の本邦報告例は、23年間(1983年~2005年)で39例のみであった。直腸はわずか3例で、無症状例は8例と少ない。腹痛や下痢などの消化器症状が、消化管アニサキス症を診断する際の手がかりとなり、消化管内視鏡を施行して診断確定となる症例が多い。直腸のアニサキス症は極めて稀な疾患で、無症状のまま偶然発見された貴重な症例であったので、若干の文献的考察を加味し報告する。 |
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Bibliography: | 1C23 |
ISSN: | 1880-1749 1880-1730 |
DOI: | 10.14879/nnigss.56.0.47.0 |