アカントアメーバ角膜炎における微生物学的検査について
<はじめに>アカントアメーバは1974年に英国で初めて報告され、本邦でも200例以上知られる難治性感染症である。今回、我々は微生物学的検査により診断が確定した自験例2例について検査所見を中心に報告する。 <症例1>42歳女性。使い捨てのコンタクトレンズを井戸水にて洗浄し、繰り返し使用していた。平成14年5月30日、右目眼痛にて近医受診、抗菌剤とステロイド剤の点眼を処方され、症状改善せず6月7日精査加療希望し当院眼科を受診。 <症例2>17歳男性。ソフトコンタクトレンズを使用。平成17年8月29日、両目眼痛にて当院受診。角膜の検査所見から、加療入院となった。 <細菌学的検査所見>角膜の鏡検では、...
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Published in | Nihon Nouson Igakukai Gakujyutu Soukai Syourokusyu Vol. 56; p. 85 |
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Main Author | |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
一般社団法人 日本農村医学会
2007
THE JAPANESE ASSOCIATION OF RURAL MEDICINE |
Subjects | |
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ISSN | 1880-1749 1880-1730 |
DOI | 10.14879/nnigss.56.0.85.0 |
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Summary: | <はじめに>アカントアメーバは1974年に英国で初めて報告され、本邦でも200例以上知られる難治性感染症である。今回、我々は微生物学的検査により診断が確定した自験例2例について検査所見を中心に報告する。 <症例1>42歳女性。使い捨てのコンタクトレンズを井戸水にて洗浄し、繰り返し使用していた。平成14年5月30日、右目眼痛にて近医受診、抗菌剤とステロイド剤の点眼を処方され、症状改善せず6月7日精査加療希望し当院眼科を受診。 <症例2>17歳男性。ソフトコンタクトレンズを使用。平成17年8月29日、両目眼痛にて当院受診。角膜の検査所見から、加療入院となった。 <細菌学的検査所見>角膜の鏡検では、アクリジンオレンジ染色、グラム染色、ファンギフローラY染色のいずれも、上皮細胞に付着するリンパ球大の細胞や厚い壁を持つシスト様の細胞が観察されたが、アメーバと確定はできなかった。 培養は、納豆菌と加熱大腸菌を餌として用いた。これらの菌浮遊液を濃厚に塗布した無栄養寒天培地の中心に試料を接種、30℃で培養した。翌日、透過光にて観察すると、試料の周囲0.5ミリほどが透明化し、翌々日には約2ミリに拡大した。シャーレ裏面からの鏡検(100倍)では、栄養体が培地表面を蛇行して進んだ痕跡と多数のシストが観察された。シストは強拡で2重の細胞膜構造を持つ多角形、定型的なアカントアメーバの形態であった。 症例2のコンタクトレンズ保存液とシストのPCRでは、Acanthamoeba polyphagaと同一の増幅産物が確認された。 <臨床経過>症例1は本症に有効とされる抗真菌剤の治療に抵抗し、入院29日以降、陰性化した。症例2は早期に0.02%ヒビテンが使用され、1週間で陰性化した。症例1はわずかな角膜の混濁を残して退院、症例2は後遺症なく退院、2例とも再燃を認めていない。 <考察>角膜の鏡検は、試料が微量な上に細胞層が厚く塗沫されると病原体の確認が難しい。アクリジンオレンジやファンギフローラYは、暗視野に目的物が光るため感度が高く、加えて他の染色液を重ねられる利点がある。本例でも、PASやグラム染色に移行できたため、眼科材料には有効な染色法と思われた。 しかし、虫体は多彩な形態を呈し、特に病初期は虫体量が少ないため鏡検だけで確定することは難しい。ゆえにアメーバの培養は、同定に不可欠と思われる。培養の餌としては1昼夜培養後の加熱大腸菌が知られているが、作成に時間を要とするため迅速性に欠ける。納豆菌は、市販の納豆から菌浮遊液を得られるので培地の作成が短時間で済む点や、発育速度も大腸菌と差がなく検体接種後数時間で栄養型が確認できたことから、有効な方法と考えられた。 本角膜炎は、治療時期を逸すると失明や視野障害を残すため、検査成績が患者のQOLを大きく左右する。コンタクトレンズの使用、ヘルペスや真菌・一般細菌など他の検査所見、通常の加療に反応しない角結膜炎や眼痛などでは、アメーバの可能性を考慮し、検査を進めることが必要と思われた。 |
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Bibliography: | 1E12 |
ISSN: | 1880-1749 1880-1730 |
DOI: | 10.14879/nnigss.56.0.85.0 |