語彙障害の解析から治療へ

失語の回復と治療の関係について言語聴覚士の立場から検討した。流暢型重度失語1例の回復期における治療経過を報告し, 語彙障害に対する認知神経心理学的アプローチの有効性と問題点を検討した。症例は, 語音認知の障害が重篤で, 直接的な治療によって改善が得られなかったが, 語の理解や語彙判断, 語の復唱には改善が認められ, 意味からのトップダウンを強化する治療で聴覚的理解はある程度改善すると考えられた。また発話に関しては, 語の音韻形式の想起がきわめて困難で, 通常の呼称ルートを促通する訓練では改善が得られなかった。そこで, 訓練の経過中に改善が認められた漢字・仮名の音読を利用し, 呼称過程を代償的に...

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Bibliographic Details
Published in高次脳機能研究 : 日本高次脳機能障害学会誌 = Higher brain function research Vol. 24; no. 3; pp. 221 - 231
Main Author 奥平, 奈保子
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 一般社団法人 日本高次脳機能学会 2004
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ISSN1348-4818
1880-6554
DOI10.2496/hbfr.24.221

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Summary:失語の回復と治療の関係について言語聴覚士の立場から検討した。流暢型重度失語1例の回復期における治療経過を報告し, 語彙障害に対する認知神経心理学的アプローチの有効性と問題点を検討した。症例は, 語音認知の障害が重篤で, 直接的な治療によって改善が得られなかったが, 語の理解や語彙判断, 語の復唱には改善が認められ, 意味からのトップダウンを強化する治療で聴覚的理解はある程度改善すると考えられた。また発話に関しては, 語の音韻形式の想起がきわめて困難で, 通常の呼称ルートを促通する訓練では改善が得られなかった。そこで, 訓練の経過中に改善が認められた漢字・仮名の音読を利用し, 呼称過程を代償的に再編成する治療法の効果を測定した。その結果「仮名書称後音読」が呼称の方略として有効であることが明らかになった。回復期には, 神経系の自然回復を最大限に活用し促進する治療が有効で, ターゲットをしぼったピンポイントな戦略的治療とともに, 言語処理全般を賦活する総合的アプローチも重要である。神経・認知レベルにおける回復プロセスを知ることが, 有効な言語治療を行ううえで必要であると考えられた。
ISSN:1348-4818
1880-6554
DOI:10.2496/hbfr.24.221