製パン性に優れコムギ縞萎縮病抵抗性を持つ関東以西向け秋播性コムギ新品種「せとのほほえみ」の育成

西日本地域では,パン用コムギ品種として「せときらら」や「ミナミノカオリ」が広く栽培されている.「せときらら」は多収である反面,子実の蛋白質含有率が低くなりやすく,「ミナミノカオリ」は穂発芽耐性が劣るため,雨害による品質低下が起こりやすい.また,近年西日本地域ではコムギ縞萎縮病の拡大や暖冬年での幼穂の凍霜害が問題となっている.これらの問題を解決するため,蛋白質含有率が高く,穂発芽耐性,コムギ縞萎縮病抵抗性が優れた秋播性の品種の育成を目標に「中系10-28」を母本,「10Y1-048(後の「くまきらり」)」を父本とした人工交配を行い,その後代から派生系統育種法により「せとのほほえみ」を育成した.「...

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Published in育種学研究 Vol. 27; no. 1; pp. 51 - 60
Main Authors 加藤, 啓太, 池田, 達哉, 石川, 直幸, 川口, 謙二, 船附, 稚子, 谷中, 美貴子, 伊藤, 美環子, 伴, 雄介, 高田, 兼則
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本育種学会 01.06.2025
Subjects
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ISSN1344-7629
1348-1290
DOI10.1270/jsbbr.24J16

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Summary:西日本地域では,パン用コムギ品種として「せときらら」や「ミナミノカオリ」が広く栽培されている.「せときらら」は多収である反面,子実の蛋白質含有率が低くなりやすく,「ミナミノカオリ」は穂発芽耐性が劣るため,雨害による品質低下が起こりやすい.また,近年西日本地域ではコムギ縞萎縮病の拡大や暖冬年での幼穂の凍霜害が問題となっている.これらの問題を解決するため,蛋白質含有率が高く,穂発芽耐性,コムギ縞萎縮病抵抗性が優れた秋播性の品種の育成を目標に「中系10-28」を母本,「10Y1-048(後の「くまきらり」)」を父本とした人工交配を行い,その後代から派生系統育種法により「せとのほほえみ」を育成した.「せとのほほえみ」は蛋白質含有率が「せときらら」より高く,製パン性が優れるとともに,穂発芽耐性も「せときらら」や「ミナミノカオリ」より優れていた.また,「せとのほほえみ」は播性IVの秋播性品種で,一定の低温期間を経てから幼穂が分化するため,暖冬年でも早すぎる幼穂分化が起きず,「せときらら」や「ミナミノカオリ」などの幼穂の分化に低温を必要としない春播性の品種に比べ,凍霜害のリスクは低いと考えられた.さらに,「せとのほほえみ」はコムギ縞萎縮病抵抗性遺伝子領域QYm.naro-2Dを持ち,本病に対し,優れた抵抗性を示すことが明らかとなった.以上のことから「せとのほほえみ」は製パン性が高く,秋播性で幼穂が凍霜害を受けるリスクが少なく,関東・東海・東山地域などの冬の気温がある程度低い地域やコムギ縞萎縮病の発生地域にも適応できる品種であると考えられ,今後西日本地域だけでなく,関東から九州までの広い地域で栽培できる新たなパン用コムギ品種としての普及が期待される.
ISSN:1344-7629
1348-1290
DOI:10.1270/jsbbr.24J16