生涯的縦断研究における研究者と協力者との対話的関係性の構築:研究方法の一つの探索モデルとして

長期にわたる縦断研究は,研究者と協力者が繰り返し関わるため,両者にとって意味あるものとすることが課題である。そこで,本生涯的縦断研究では,子どもの自己決定を重視する子どもキャンプを,協力児の幼児期から青年期まで実施した。本研究では,協力児が30~50歳代となった時点で,(1)研究者(19名)及び協力者(20名)にとっての子どもキャンプ体験の意味を検討し,(2)生涯的縦断研究の開始から現在までの研究者と協力者の関係性の変容を解明した上で,生涯的縦断研究の探索モデルを提案することを目的とした。自伝的手記や語りによる振り返りを質的に分析した結果,(1)研究者は子どもの自己決定・自己実現を支えるために...

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Published in発達心理学研究 Vol. 30; no. 4; pp. 299 - 314
Main Authors 藤﨑, 眞知代, 杉本, 真理子, 石井, 富美子
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 一般社団法人 日本発達心理学会 2019
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Summary:長期にわたる縦断研究は,研究者と協力者が繰り返し関わるため,両者にとって意味あるものとすることが課題である。そこで,本生涯的縦断研究では,子どもの自己決定を重視する子どもキャンプを,協力児の幼児期から青年期まで実施した。本研究では,協力児が30~50歳代となった時点で,(1)研究者(19名)及び協力者(20名)にとっての子どもキャンプ体験の意味を検討し,(2)生涯的縦断研究の開始から現在までの研究者と協力者の関係性の変容を解明した上で,生涯的縦断研究の探索モデルを提案することを目的とした。自伝的手記や語りによる振り返りを質的に分析した結果,(1)研究者は子どもの自己決定・自己実現を支えるために自分自身のあり方を吟味したことが,(2)協力児は自分が受け入れられ自己実現できた体験を基盤に,研究者への信頼と仲間との太く強い絆を結んだことが,その後の生き方に影響を及ぼしていること等が明らかにされた。さらに,(3)研究者・協力者関係は5期に区分され,最終的に「対等な対話的関係」へと進展していた。その変化の要因は,研究者が子どもとの関わりを繰り返し吟味し,語り合い,共有するあり方であると考える。それゆえ,協力者が青年期には能動的参加者となり,さらに研究者と協力者が対等な対話的関係を構築していくアプローチは,研究協力者が心理的現実の共同構成者となる生涯的縦断研究の探索モデルの一つといえよう。
ISSN:0915-9029
2187-9346
DOI:10.11201/jjdp.30.299