1950年以降のスギとヒノキの生理生態学的研究に関する文献数の変化とその社会・環境的な背景

本研究は,スギ・ヒノキの生理生態機能に関する過去70年の文献を解析し,文献数や内容の変遷と社会・環境的な背景を明らかにすることを目的とした。まず研究テーマをバイオマス,光合成・呼吸,樹体内の養分,水分生理関係,材形質,その他に分けた。次に文献数を1950年から5年ごとに集計した。文献数は1975~1979年をピークに1980~1985年まで一度低下したが,1985~1989年にふたたび増加し,2020年まで緩やかに低下した。最初のピークの背景には拡大造林の終焉が関係していた。特に,林地肥培試験に伴う樹体内の養分に関する研究は1980年代以降ほとんどなくなった。また1965年から1974年に国際...

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Published in森林立地 Vol. 65; no. 1; pp. 29 - 37
Main Authors 田中, 憲蔵, 大曽根, 陽子, 橋本, 昌司
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 森林立地学会 25.06.2023
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Summary:本研究は,スギ・ヒノキの生理生態機能に関する過去70年の文献を解析し,文献数や内容の変遷と社会・環境的な背景を明らかにすることを目的とした。まず研究テーマをバイオマス,光合成・呼吸,樹体内の養分,水分生理関係,材形質,その他に分けた。次に文献数を1950年から5年ごとに集計した。文献数は1975~1979年をピークに1980~1985年まで一度低下したが,1985~1989年にふたたび増加し,2020年まで緩やかに低下した。最初のピークの背景には拡大造林の終焉が関係していた。特に,林地肥培試験に伴う樹体内の養分に関する研究は1980年代以降ほとんどなくなった。また1965年から1974年に国際生物学事業で行われた森林生産力の研究の影響で,バイオマスに関する研究が1970年代をピークに収束した。1985年以降に文献数が増加するが,テーマは光合成・呼吸と水分生理へシフトした。これは測定機器の発展に加え,酸性雨や気候変動の評価と対策に樹木の生理的なパラメータが不可欠だった背景がある。英文で書かれた文献数は2000年代以降増加し,国際発信力が大きくなった。また,研究が行われた地域に偏りがあり主要な研究グループと関係があった。以上から,文献数やテーマは,拡大造林や気候変動など社会的・環境的要因で変遷したことが明らかになった。
ISSN:0388-8673
2189-6275
DOI:10.18922/jjfe.65.1_29