生物教育におけるウイルス教材研究の現状と展望

ウイルス教育の現状,すなわちウイルス学を専門とする大学のコース以外,とりわけ中等教育の場においてウイルスを教育する場が少ないのは,わが国に限らず世界においても同様であると考えられるが,コロナ禍を受けて,ウイルス教育を加速させようとする動きが,わが国でも海外でも見られるようになった.わが国のウイルス教育の現状は,残念ながらコロナ禍を挟んでもなお,一足飛びに進歩しているとは言えないが,特に高等学校などでのウイルスの扱いは,学習指導要領ではウイルスについて記されていないにもかかわらず,近年になっていくつかの萌芽がみえてきた.通常のウイルスは光学顕微鏡でも観察できないため,ラボベースで取り扱う方法には...

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Published in生物教育 Vol. 66; no. 1; pp. 2 - 10
Main Author 武村, 政春
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 一般社団法人 日本生物教育学会 2024
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Summary:ウイルス教育の現状,すなわちウイルス学を専門とする大学のコース以外,とりわけ中等教育の場においてウイルスを教育する場が少ないのは,わが国に限らず世界においても同様であると考えられるが,コロナ禍を受けて,ウイルス教育を加速させようとする動きが,わが国でも海外でも見られるようになった.わが国のウイルス教育の現状は,残念ながらコロナ禍を挟んでもなお,一足飛びに進歩しているとは言えないが,特に高等学校などでのウイルスの扱いは,学習指導要領ではウイルスについて記されていないにもかかわらず,近年になっていくつかの萌芽がみえてきた.通常のウイルスは光学顕微鏡でも観察できないため,ラボベースで取り扱う方法には限りがあるが,それでもいくつかの方法があり,選択の余地はある.ウイルスの中でもバクテリオファージはとりわけ20世紀の頃から中等教育において多く用いられてきたが,最近では,ヒトには感染しない変異型インフルエンザウイルスを用いた赤血球凝集活性の測定実験,環境サンプル中のバクテリオファージの検出実験,巨大ウイルスの光学顕微鏡での観察の試みなど,数多くの先行研究が行われてきた.普段は観察できないウイルスを生徒が身近に感じるためには,PCRによる遺伝子の増幅や,ウイルスの“生での”観察など,「ウイルスをいかに見せるか」が重要であると考えられる.こうした様々な試みは,生徒により身近にウイルスを感じてもらうためのものでもあり,ウイルスに関する正しい知識を修得してもらい,国民全体のウイルスリテラシーを向上させるためのものでもある.これはわが国に限らず,諸外国においても同様で,今後のウイルス教育を生物科目において充実させていく意義は,ウィズ・ウイルス社会を迎えようとしている今だからこそ,大きなものとなるであろう.
ISSN:0287-119X
2434-1916
DOI:10.24718/jjbe.66.1_2