ベトナムにおけるハンセン病対策の現状と課題 重度障害を持つ患者の処遇改善に向けて

目的 ベトナムはかつて有数のハンセン病流行国であったが、1982年から83年にかけて本格的に導入された Multi-drug Therapy(MDT)と国を挙げたハンセン病制圧への取り組みによって、1995年にWHOの制圧目標値(有病率を人口1万人あたり1人以下とする)をベトナム全国レベルで達成することとなった。 一方、多数の元患者がハンセン病村などでの生活を送っている。これらの元患者は重度の身体障害や後遺症を有している者が多いにもかかわらず、その生活の質を向上させる上での取り組みがなされているとは言い難い。 本論では、このような現状についてベトナムにおけるハンセン病専門治療施設およびハンセン...

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Published in国際保健医療 Vol. 25; no. 2; pp. 79 - 87
Main Author 渡辺, 弘之
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本国際保健医療学会 25.06.2010
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Summary:目的 ベトナムはかつて有数のハンセン病流行国であったが、1982年から83年にかけて本格的に導入された Multi-drug Therapy(MDT)と国を挙げたハンセン病制圧への取り組みによって、1995年にWHOの制圧目標値(有病率を人口1万人あたり1人以下とする)をベトナム全国レベルで達成することとなった。 一方、多数の元患者がハンセン病村などでの生活を送っている。これらの元患者は重度の身体障害や後遺症を有している者が多いにもかかわらず、その生活の質を向上させる上での取り組みがなされているとは言い難い。 本論では、このような現状についてベトナムにおけるハンセン病専門治療施設およびハンセン病村にて実施した調査結果から把握し、ハンセン病によって生じた障害の程度の違いから、ベトナムのハンセン病対策の現状と課題について明らかにすることを目的とする。 方法 ベトナムのハンセン病治療施設でハンセン病および後遺症の治療を受けている患者、ハンセン病村で生活している元患者の402名から調査を行い、身体障害の状態をWHOによるハンセン病の障害程度区分によって分類した他、上肢・下肢・容貌の各部位における障害発生状況について確認した。 結果 ハンセン病による身体障害をWHOのハンセン病障害程度スケールによって分類したところ、「目に見える変形や損傷がある」(G2)群が全体の70.1%、「目に見える変形や損傷はないが知覚麻痺がある」(G1)群が18.9%、「知覚麻痺もなく目に見える変形や損傷がない状態」(G0)の群が10.9%という結果となった。可視的な身体障害を持つ群の半数以上は60歳代と70歳代に集中していた他、MDTが導入される以前に発病した群の方が身体障害の程度が高い傾向がみられた。また、重度の身体障害が発生している群は後遺症の治療が長期化している結果となった。 結論 MDTは身体障害の発生予防に効果的であることが再確認されたが、MDTが導入される以前に発病した元患者の多くは現在もなおハンセン病による後遺症に苦しみ、重い身体障害のためにハンセン病村等での生活を余儀なくされるといった困難な状況に置かれていることが判明した。ベトナムは新規患者発生率の減少に成功したものの、こうした患者の処遇には取り組まれておらず、今後生活の質を向上させるための取り組みが必要である。
ISSN:0917-6543
DOI:10.11197/jaih.25.79