神経細胞の増殖と移動にともなう脳形態形成の数理モデリング

大脳皮質や小脳皮質は、複雑わ構造と精緻な細胞層構造を有し、高度な脳機能と密接に関連していることが知られている。このような脳の特徴的な形態の形成には、神経細胞の増殖や移動、分化等の協調的な細胞活動の結果として生じる組織の成長や変形が重要な役割を果たしている。したがって、脳形態形成のメカニズムを明らかにするためには、脳組織内部における力学状態の経時変化と、それを生み出す多細胞ダイナミクスを統合的に解析することが不可欠である。そこで本研究では、細胞群の集団移動を偏微分方程式として記述し、これを細胞増殖に起因する組織の成長と変形を表現する連続体力学モデルに組み込むことにより、脳形態形成の数理モデルを構...

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Published in生体医工学 Vol. Annual59; no. Abstract; p. 188
Main Authors 亀尾, 佳貴, 竹田, 宏典, 安達, 泰治
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 公益社団法人 日本生体医工学会 2021
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Summary:大脳皮質や小脳皮質は、複雑わ構造と精緻な細胞層構造を有し、高度な脳機能と密接に関連していることが知られている。このような脳の特徴的な形態の形成には、神経細胞の増殖や移動、分化等の協調的な細胞活動の結果として生じる組織の成長や変形が重要な役割を果たしている。したがって、脳形態形成のメカニズムを明らかにするためには、脳組織内部における力学状態の経時変化と、それを生み出す多細胞ダイナミクスを統合的に解析することが不可欠である。そこで本研究では、細胞群の集団移動を偏微分方程式として記述し、これを細胞増殖に起因する組織の成長と変形を表現する連続体力学モデルに組み込むことにより、脳形態形成の数理モデルを構築した。まず、構築した数理モデルに基づいて大脳皮質の層形成を再現することにより、その妥当性を示した。さらに、この数理モデルを小脳のしわ形成に適用し、小脳に特徴的な規則正しく深い脳溝を持つしわ構造が形成されるメカニズムを検討した。その結果、小脳組織の変形にともなって線維に沿った神経細胞の移動方向が変化し、それが組織の不均一な成長を引き起こすことにより、しわの伸長が促進されることが示された。本研究は、形態形成を通じて脳の複雑な構造と機能が創発されるメカニズムを、力学的・生化学的観点から理解する上で、大きく貢献すると期待される。
ISSN:1347-443X
1881-4379
DOI:10.11239/jsmbe.Annual59.188