一酸化炭素中毒後に冠微小血管攣縮による急性心筋梗塞を発症した1例

症例は45歳の男性。自殺企図による一酸化炭素(CO)中毒で当院入院となった。経過良好であったが,第6病日に突然無脈性心室頻拍を生じ,心電図上II,III,aVF,V1-V6で著明なST上昇を認めた。カテーテル室入室時にはST上昇は改善し,冠動脈造影検査では有意狭窄はなく,エルゴメトリンによる冠攣縮誘発試験も陰性であった。硝酸イソソルビドの持続静注を行っていたが第7病日にも同様のイベントが生じ,ST上昇が持続している間に再度冠動脈造影検査を行った。左右冠動脈に狭窄や血栓性病変はないものの右冠動脈に著明な造影遅延所見を認め,冠微小血管攣縮と診断した。血中CPKは2,660 IU/lと上昇し心筋梗塞...

Full description

Saved in:
Bibliographic Details
Published in日本救急医学会雑誌 Vol. 23; no. 11; pp. 787 - 792
Main Authors 渡邊, 圭祐, 片山, 哲治, 奥山, 英策, 菊田, 浩一, 中村, 夏樹, 佐藤, 大亮, 矢埜, 正実
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 一般社団法人 日本救急医学会 15.11.2012
Subjects
Online AccessGet full text

Cover

Loading…
More Information
Summary:症例は45歳の男性。自殺企図による一酸化炭素(CO)中毒で当院入院となった。経過良好であったが,第6病日に突然無脈性心室頻拍を生じ,心電図上II,III,aVF,V1-V6で著明なST上昇を認めた。カテーテル室入室時にはST上昇は改善し,冠動脈造影検査では有意狭窄はなく,エルゴメトリンによる冠攣縮誘発試験も陰性であった。硝酸イソソルビドの持続静注を行っていたが第7病日にも同様のイベントが生じ,ST上昇が持続している間に再度冠動脈造影検査を行った。左右冠動脈に狭窄や血栓性病変はないものの右冠動脈に著明な造影遅延所見を認め,冠微小血管攣縮と診断した。血中CPKは2,660 IU/lと上昇し心筋梗塞と診断した。ニコランジルの持続静注を加えたところその後は心室頻拍,ST上昇とも再出現せず経過した。CO中毒に伴う心筋梗塞の報告は散見される。原因としてCO-Hb結合に伴う組織低酸素や,ヘモグロビンとは関係しないミトコンドリアレベルでの直接的な障害がいわれているが,冠動脈攣縮の関与を推察した報告もある。冠動脈攣縮は主として心表面を走る太い冠動脈に生じるが,心筋内の微小冠動脈にも生じることが知られており,これを冠微小血管攣縮という。本症例ではCO中毒によって血管内皮障害が生じ,そこに後日何らかの自律神経機能異常による刺激が加わって冠微小血管攣縮が生じたのではないかと推察された。STが上昇している急性期に冠動脈造影検査を行い,冠微小血管攣縮が診断できた報告は本症例が初めてと思われる。CO中毒に際しては,致死的不整脈を伴う心筋虚血を合併することがあり,その病態として冠微小血管攣縮が存在することも念頭に置いて治療にあたる必要がある。
ISSN:0915-924X
1883-3772
DOI:10.3893/jjaam.23.787