肺移植と再生医療

肺移植は重症呼吸不全や肺高血圧症で他に有効な治療手段がなく生命の危険が迫っている患者における治療選択肢のひとつであり、近年脳死肺移植症例は着実に増加している。しかし、ドナー不足の問題など解決すべき課題は依然として多く、終末期呼吸器疾患患者の治療として十分機能しているとは言えない。こうした背景から、呼吸器領域においても再生医療の実用化が期待されており、近年幹細胞を用いた細胞治療や高次肺構造を構築する生体組織工学の開発等が進みつつある。我々は、肺切除小動物モデルを用いて成長因子や脂肪組織由来幹細胞(ADSC)を投与することで代償性肺成長が促進されることを実証した。また肺気腫や虚血再灌流に対してAD...

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Published in移植 Vol. 59; no. Supplement; p. s288_2
Main Authors 狩野, 孝, 木村, 亨, 新谷, 康, 福井, 絵里子, 大瀬, 尚子, 木村, 賢二
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 一般社団法人 日本移植学会 2024
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ISSN0578-7947
2188-0034
DOI10.11386/jst.59.Supplement_s288_2

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Summary:肺移植は重症呼吸不全や肺高血圧症で他に有効な治療手段がなく生命の危険が迫っている患者における治療選択肢のひとつであり、近年脳死肺移植症例は着実に増加している。しかし、ドナー不足の問題など解決すべき課題は依然として多く、終末期呼吸器疾患患者の治療として十分機能しているとは言えない。こうした背景から、呼吸器領域においても再生医療の実用化が期待されており、近年幹細胞を用いた細胞治療や高次肺構造を構築する生体組織工学の開発等が進みつつある。我々は、肺切除小動物モデルを用いて成長因子や脂肪組織由来幹細胞(ADSC)を投与することで代償性肺成長が促進されることを実証した。また肺気腫や虚血再灌流に対してADSC投与により、肺傷害が軽減されることを小動物モデルで明らかにした。さらに、ヒト気腫肺の網羅的遺伝子解析を行い、肺気腫モデルマウスにおけるADSC投与による遺伝子発現変化と比較することで、ヒトとマウスで共通の肺組織修復に関連した遺伝子群を同定した。しかし、世界的に実施されている難治性肺疾患に対する間葉系幹細胞を用いた細胞治療の効果は限定的であり、小動物モデルでの効果はヒト疾患では反映されていないのが現状である。今後は、ヒト肺組織に対する網羅的解析やヒト肺オルガノイド培養技術等を用いた肺の発生、病態、そして肺修復メカニズムの解明によって、今後の肺再生医療の発展と臨床への還元が期待される。
ISSN:0578-7947
2188-0034
DOI:10.11386/jst.59.Supplement_s288_2