唇裂口蓋裂児一症例における哺語期の構音と心身の発達

唇裂口蓋裂児の一症例の喃語期の構音と心身の発達について検討した。対象は左側唇裂口蓋裂男児。6歳時の経過観察で知能は正常,構音指導で良好な鼻咽腔閉鎖機能と正常構音を獲得していることが確認された。生後6ヶ月から月1回,家庭を訪問し,1回30分,親と子の様子をビデオに録画し,筆記記録や写真撮影も随時行った。構音については,ビデオ30分間の録画時間中のすべての発声について1音ずつ判定した。発達については,ビデオ30分問の録画時間中の「母親の行動」「子どもの模倣行動」の回数を計測し,また各時期の発達上の特徴について,筆記記録や写真も含めて検討した。 その結果,以下のことが確認された。 1)声門音以外の両...

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Published in日本口蓋裂学会雑誌 Vol. 14; no. 3; pp. 358 - 365
Main Authors 川野, 通夫, 平野, 信子, 井上, 幸, 国吉, 京子, 中島, 誠
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 一般社団法人 日本口蓋裂学会 1989
Subjects
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ISSN0386-5185
2186-5701
DOI10.11224/cleftpalate1976.14.3_358

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Summary:唇裂口蓋裂児の一症例の喃語期の構音と心身の発達について検討した。対象は左側唇裂口蓋裂男児。6歳時の経過観察で知能は正常,構音指導で良好な鼻咽腔閉鎖機能と正常構音を獲得していることが確認された。生後6ヶ月から月1回,家庭を訪問し,1回30分,親と子の様子をビデオに録画し,筆記記録や写真撮影も随時行った。構音については,ビデオ30分間の録画時間中のすべての発声について1音ずつ判定した。発達については,ビデオ30分問の録画時間中の「母親の行動」「子どもの模倣行動」の回数を計測し,また各時期の発達上の特徴について,筆記記録や写真も含めて検討した。 その結果,以下のことが確認された。 1)声門音以外の両唇音・硬口蓋音・軟口蓋音の数を見ると,10ヶ月,反復哺語が盛んになった時期と15ヶ月,音声模倣が現れた時期に増加がみられるなど,口蓋裂児の場合も反復哺語や音声模倣の現れる時期に構音の分化や獲得がすすんでいた。 2)本症例の無意味音声の構音発達は,有意味語を話し始めた20ヶ月においても,まだ歯音または歯茎音,歯茎硬口蓋音を殆ど構音していないなど大幅に遅れている。本症例の20ヶ月時の構音は,健常児では6カ月ころから構音し始めており,歯音または歯茎音,歯茎硬口蓋音に限ってみると,分化が更に遅れていると考えられた。 3)母親が出産時のショックや,治療や育児への不安を強く持っていたため,本症例に十分働き掛けられず,6ヶ月時の本症例の発遅は遅れていた。母親が安定し,働き掛けが増えると共に本症例の発達も促されたが,20ヶ月時においても,まだ遅れが認められた。母親が早く安定して子どもと関われるよう,早期より,カウンセリング,治療についての見通し,育児への助言等,母親への援助を行っていくことが重要である。
ISSN:0386-5185
2186-5701
DOI:10.11224/cleftpalate1976.14.3_358