小形風力発電機への鳥類の接近回数:衝突リスク管理方法の確立に向けて

要 約: 風力発電の設置基数が増加するにつれ、鳥類の衝突事故増加が問題となっており、2021年には発電量が3万7500kW以上の風車について、建設時に希少猛禽類に対して環境アセスメントが求められている。一方、小形風力発電機(以下、小形風車という)は環境アセスメントの義務がなく、影響評価による建設中止がないことから立地選定の制限が少なく大型風車では建てることができない場所にも建設することができ、近年設置基数は増加し続けている。日本での小形風車による鳥類の死亡報告回数は増加傾向にあり、オジロワシHaliaeetus albicillaなどの希少な野鳥の衝突事例(バードストライク)が確認されている。...

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Published in保全生態学研究 p. 2138
Main Authors 茨田, 匡, 新井, 隆史, 久保, 昌也, 北村, 亘
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 一般社団法人 日本生態学会 2024
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Summary:要 約: 風力発電の設置基数が増加するにつれ、鳥類の衝突事故増加が問題となっており、2021年には発電量が3万7500kW以上の風車について、建設時に希少猛禽類に対して環境アセスメントが求められている。一方、小形風力発電機(以下、小形風車という)は環境アセスメントの義務がなく、影響評価による建設中止がないことから立地選定の制限が少なく大型風車では建てることができない場所にも建設することができ、近年設置基数は増加し続けている。日本での小形風車による鳥類の死亡報告回数は増加傾向にあり、オジロワシHaliaeetus albicillaなどの希少な野鳥の衝突事例(バードストライク)が確認されている。しかし日本では小形風車におけるバードストライクのリスク評価のための研究は未だされていない。日本ではリスク評価に必要なバードストライクの調査データが十分得られていないため、本研究では小形風車から一定の範囲に入った鳥類の接近回数を調査した。定点観察調査による接近回数を目的変数とした一般化線形モデルを用いて飛翔頻度に影響を与える季節や気象などの要因を明らかにした。最も多く接近が観察された種はオオセグロカモメLarus schistisagusで537回、次にウミネコLarus crassirostrisで536回、ハシブトガラスCorvus macrorhynchosで459回、カワラヒワChloris sinicaが292回記録された。希少種であるオジロワシとオオワシH. pelagicusはそれぞれ29回と2回記録された。オオセグロカモメは大型風車でも衝突事例が多い種で共通性も見られたが、小形風車では草原性の小型の鳥類であるカワラヒワでも接近がみられた。風車の稼働調節によるリスク管理として、風速は鳥種によって影響が異なり、ハシブトガラス、カワラヒワでは強風時に接近が少なかったが、逆にオジロワシ、オオセグロカモメでは強風時に接近が多かった。季節の効果は、夏鳥であるカワラヒワだけでなくハシブトガラス、オオセグロカモメにおいても4月-8月の繁殖期に10m範囲内への接近が多く、繁殖期はリスクが高い季節であった。風車の設置場所選択や周辺構造物による鳥類の衝突リスク管理では調査地点数が少なく信頼できる結果は得られなかった。
ISSN:1342-4327
2424-1431
DOI:10.18960/hozen.2138