堆積物の熱履歴解析による種子島沖泥火山群の噴出機構の解明

世界各地の大陸縁辺域に分布する泥火山は、地下深部にある高間隙水圧を持った堆積物が上昇し、海底表層または地表に噴出した地形である(Kopf, 2002)。高間隙水圧は、泥とそれに関する深部の水やメタンガスなどの流体によって形成される(Wallmann et al., 2006ほか)。  日本近海では、南海トラフ沿いに位置する紀伊半島沖熊野海盆と種子島沖に広く分布が確認されている。種子島沖の泥火山は、これまでの海底調査から15個確認されており(Ujiie et al., 2000)、MV#1~#15まで番号がつけられている。本研究では、MV#1 (30˚53´N, 131˚46´E; water...

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Published in日本地質学会学術大会講演要旨 p. 102
Main Authors 濱田, 洋平, 芦, 寿一郎, 村山, 雅史, 井尻, 暁, 松崎, 浩之, 多田井, 修, 谷川, 亘, 瀬戸口, 亮眞, 萩野, 恭子, 山形, 武靖
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 一般社団法人 日本地質学会 2021
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ISSN1348-3935
2187-6665
DOI10.14863/geosocabst.2021.0_102

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Summary:世界各地の大陸縁辺域に分布する泥火山は、地下深部にある高間隙水圧を持った堆積物が上昇し、海底表層または地表に噴出した地形である(Kopf, 2002)。高間隙水圧は、泥とそれに関する深部の水やメタンガスなどの流体によって形成される(Wallmann et al., 2006ほか)。  日本近海では、南海トラフ沿いに位置する紀伊半島沖熊野海盆と種子島沖に広く分布が確認されている。種子島沖の泥火山は、これまでの海底調査から15個確認されており(Ujiie et al., 2000)、MV#1~#15まで番号がつけられている。本研究では、MV#1 (30˚53´N, 131˚46´E; water depth: 1540 m)、MV#2 (30˚55´N, 131˚50´E; water depth: 1430 m)、MV#3 (31˚03´N, 131˚41´E; water depth: 1200 m)、MV#14 (30˚11´N, 131˚23´E; water depth: 1700 m) の堆積物コアを用いて、堆積物の特性と炭化水素ガスの起源などについて調べた。 堆積物コアは、X線CTによる内部構造観察、加速器質量分析器を用いた10Be年代測定、石灰質ナノ化石による微化石年代、XRDによる鉱物組成分析、粘土鉱物組成比から堆積物の温度履歴を推定した。また、炭化水素ガスは、メタン/エタン比 (C1/C2)、メタンガスの炭素同位体比からその生成起源を推定した。 堆積物コアは、全体に多くの泥礫を含む粘土質の堆積物であった。MV#2、MV#3の微化石年代と10Be年代結果は整合的であり、様々な年代を示したが、主に中期中新世以降を示した。一方、MV#14は表層に第四紀の堆積物が被覆していた。種子島周辺には、始新世の四万十帯が分布しているが(Ujiie et al., 2000)、これらの泥火山堆積物の起源は、年代測定の結果から、四万十帯より上位の堆積層由来であると考えられる。堆積物の全岩鉱物組成は、全体的に石英、イライト、斜長石を多く含み、各泥火山による違いは見られなかった。粘土鉱物はイライトに富んでおり、スメクタイトからイライトへの脱水反応が起きる60~160℃の熱履歴を経験していると考えられる。粘土鉱物組成では、泥火山による違いが見られ、MV#1では、イライト/スメクタイト混合層が検出できたが、MV#2、3、14、では検出されなかった。MV#1では、回折パターンから見積もったイライト/スメクタイト混合層中のイライト含有量は42~45%であり、イライト化の初期段階を示す(60~100˚C)一方、MV#2、#3、#14ではMV#1より高温を経験しており、スメクタイトからイライトへと変質が進み、イライト/スメクタイト混合層のピークが検出できなかったと考えられる。また、陸上の四万十帯で報告されているイライトの半値幅(0.562 ~ 0.268)と、泥火山の堆積物の半値幅(0.7273 ~ 0.398)から、結晶度を比べた結果、全体的に四万十帯のイライトよりも、泥火山の堆積物のイライトの結晶度は低かった。このように、イライトの結晶度からも、泥火山の堆積物は、四万十帯より上位の堆積層由来であると推定される。また、温度履歴は異なるものの、XRD回折パターン、粘土鉱物組成、イライト含有量が各泥火山で類似していたことは、種子島沖における泥火山噴出堆積物の起源となる層が同じである可能性があり、Ijiri et al., 2018の結果と整合的であった。泥火山から採取されたメタンガスは、MV#1、MV#2、MV#3のメタンの炭素同位体比は-42 ~ -57‰、メタン/エタン濃度比(C1/C2比)は30~50であり、熱分解起源メタンの特徴を示した。一方、MV#14は、炭素同位体比は-57 ~ -77 ‰、C1/C2比は700~4000であり、微生物起源メタンの特徴を示した。この海域で観測されている地温勾配(25~50 ˚C/km)をもとに、熱分解ガスの生成条件 (> 80˚C)や堆積物の温度履歴を考慮すると、泥火山の噴出堆積物や炭化水素ガスは、海底下約1.5 km以深から上昇してきたと考えられる。 現在、堆積物の温度履歴の推定をより正確に行うために、粘土鉱物組成分析に加え、ビトリナイト反射率を測定しており、その結果から、炭化水素ガスや水の起源深度との違いについても議論する予定である。引用文献Kopf (2002) Rev. Geophys., 40, 1005, doi: 10.1029/2000RG000093Ijiri et al., (2018) Geosciences, 8, 220Ujiie et al., (2000) Marine Geology, 163, 149–167Wallmann et al., (2006) Earth Planet. Sci. Lett., 248, 544–559.
Bibliography:R8-O-7
ISSN:1348-3935
2187-6665
DOI:10.14863/geosocabst.2021.0_102