遺伝子改変STR/Ortマウスを用いた変形性顎関節症の病態解明と発症抑制の試み

変形性顎関節症(以下顎関節OA)は滑膜炎,関節円板の変形や断裂,下顎頭軟骨の破壊や変形をきたす顎関節症の病態の一つである。顎関節OA患者の滑液からはmatrix metalloproteinases(MMPs)やインターロイキン(ILs),軟骨破壊に関与するアグリカナーゼ(a disintegrin and metalloproteinase with thrombospondin motifs(ADAMTS)-4/5)が高発現しているとの報告があるが,顎関節OAにおける下顎頭軟骨破壊のメカニズムはいまだ不明なことが多い。顎関節OAの病態が十分に解明されていないことの理由の一つに,顎関節OAを...

Full description

Saved in:
Bibliographic Details
Published in日本顎関節学会雑誌 Vol. 35; no. 3; pp. 129 - 136
Main Author 大井, 一浩
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 一般社団法人 日本顎関節学会 20.12.2023
Subjects
Online AccessGet full text
ISSN0915-3004
1884-4308
DOI10.11246/gakukansetsu.35.129

Cover

More Information
Summary:変形性顎関節症(以下顎関節OA)は滑膜炎,関節円板の変形や断裂,下顎頭軟骨の破壊や変形をきたす顎関節症の病態の一つである。顎関節OA患者の滑液からはmatrix metalloproteinases(MMPs)やインターロイキン(ILs),軟骨破壊に関与するアグリカナーゼ(a disintegrin and metalloproteinase with thrombospondin motifs(ADAMTS)-4/5)が高発現しているとの報告があるが,顎関節OAにおける下顎頭軟骨破壊のメカニズムはいまだ不明なことが多い。顎関節OAの病態が十分に解明されていないことの理由の一つに,顎関節OAを自然発症する適切な動物モデルが乏しいことが挙げられる。STR/Ortマウスは加齢に伴い膝関節OAを自然に発症し,OA研究のマウスモデルとして確立されている。そこでわれわれは国際研究プロジェクトとしてリバプール大学と共同で,このマウス系統でも顎関節OAを自然に発症するかどうかを調査した。その結果,STR/Ortマウスは,対照として使用したCBAマウスよりも20週齢以降に顎関節OAの発現が高いことを見いだした。また,われわれのグループは,選択的にアグリカネーゼを阻害する[-1A]TIMP-3がSTR/Ortにおける膝関節OAの発症を抑制することを実証し,膝関節OAにおける主要な軟骨分解酵素がMMPではなく,アグリカナーゼであることを明らかにした。この研究は,[-1A]TIMP-3が膝関節OAにおける軟骨破壊を防ぐ治療効果があることを示している。さらに,[-1A]TIMP-3がSTR/Ortマウスの顎関節OAの進行を抑制できるかどうかも調査したところ,抑制することが判明した。これらの研究データは,アグリカナーゼが顎関節OAにおける主要な軟骨分解酵素であること,[-1A]TIMP-3が顎関節OAの有効な治療になりうる可能性を示唆している。
ISSN:0915-3004
1884-4308
DOI:10.11246/gakukansetsu.35.129