症例 先天性protein C欠損症を伴った心筋梗塞症の1例

ProteinC(PC)はビタミンK依存性蛋白質であり,antithrombin III(AT III)と共に血液凝固系の重要な制御物質とされているが,近年線溶系の活性化作用も報告され,その低下は血栓傾向を起こすとされている.今回我々は心筋梗塞症患者において先天性PC欠損症を経験したので報告する.患者は胸痛を主訴として来院し,心臓超音波検査,201Tl心筋シンチグラフィー,冠動脈造影にて心筋梗塞症と診断されたが,PC活性および抗原量が半減しており,長男のPC活性および抗原量も半減していることより遺伝関係が認められ,先天性PC欠損症と診断された.PCの作用より考え,本患者の心筋梗塞の発症に冠動脈...

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Published in心臓 Vol. 22; no. 8; pp. 939 - 943
Main Authors 島, 正巳, 岩波, 充, 首藤, 達哉, 馬本, 郁男, 小関, 忠尚, 宮尾, 賢爾, 新井, 良樹, 藤井, とも子, 岡嶋, 泰, 辻, 光, 北村, 誠, 嶺尾, 徹
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 公益財団法人 日本心臓財団 1990
Subjects
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ISSN0586-4488
2186-3016
DOI10.11281/shinzo1969.22.8_939

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Summary:ProteinC(PC)はビタミンK依存性蛋白質であり,antithrombin III(AT III)と共に血液凝固系の重要な制御物質とされているが,近年線溶系の活性化作用も報告され,その低下は血栓傾向を起こすとされている.今回我々は心筋梗塞症患者において先天性PC欠損症を経験したので報告する.患者は胸痛を主訴として来院し,心臓超音波検査,201Tl心筋シンチグラフィー,冠動脈造影にて心筋梗塞症と診断されたが,PC活性および抗原量が半減しており,長男のPC活性および抗原量も半減していることより遺伝関係が認められ,先天性PC欠損症と診断された.PCの作用より考え,本患者の心筋梗塞の発症に冠動脈狭窄に加えるにPC低下が影響したと思われる.先天性PC欠損症の主な症状は,反復性の浅在性静脈血栓症,深部静脈血栓症,肺血栓塞栓症などであり,1986年までに世界中で約50家系,200例程度の患者が報告されているが,我が国での報告は少なく,自治医大の3家系12症例の他に数家系の報告があるのみである。また本症では,血栓症の治療薬として汎用されるワーファリンにて血栓症状が悪化することがあり,注目されている.前述のごとく先天性PC欠損症は,AT II1欠損症等の他の血液凝固異常症におけるごとく,静脈血栓症状を主症状とし,現在までの先天性PC欠損症での動脈系血栓疾患の発症例の報告は少ない.本例は既往に血栓症状はなく,心筋梗塞症発症にて初めて先天性PC欠損症と診断されたまれな症例と思われる.
ISSN:0586-4488
2186-3016
DOI:10.11281/shinzo1969.22.8_939