症例 PTCR施術中一過性の右室虚血を経験した1 例における心電図変化について

症例は50歳,男.昭和61年6月6日急性下壁梗塞にて入院入院後も狭心痛の出現があり,PTCR目的にて発症後約20時間でCAG施行.左冠状動脈には有意狭窄病変を示さなかったが,右冠状動脈の右室分枝部より末梢に血栓と思われる陰影欠損を認めたため,2.5Fのカテーテルを選択的に血栓部近くに留置し線溶療法を開始した.線溶療法開始数分後より胸痛が出現し,V1~3で著明なST上昇を認めた.その際のCAGでは左前下行枝にspasm等の新たな有意病変の出現はなかったが,右冠状動脈の血栓は留置したカテーテルに沿って近位部に向かって成長し,右室枝は完全閉塞され,造影されなかった.留置したカテーテルを抜去後右冠状動...

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Published in心臓 Vol. 20; no. 8; pp. 967 - 973
Main Authors 桑木, 絅一, 落合, 秀宣, 井上, 清, 城所, 功文, 白井, 徹郎, 植田, 桂子
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 公益財団法人 日本心臓財団 1988
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ISSN0586-4488
2186-3016
DOI10.11281/shinzo1969.20.8_967

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Summary:症例は50歳,男.昭和61年6月6日急性下壁梗塞にて入院入院後も狭心痛の出現があり,PTCR目的にて発症後約20時間でCAG施行.左冠状動脈には有意狭窄病変を示さなかったが,右冠状動脈の右室分枝部より末梢に血栓と思われる陰影欠損を認めたため,2.5Fのカテーテルを選択的に血栓部近くに留置し線溶療法を開始した.線溶療法開始数分後より胸痛が出現し,V1~3で著明なST上昇を認めた.その際のCAGでは左前下行枝にspasm等の新たな有意病変の出現はなかったが,右冠状動脈の血栓は留置したカテーテルに沿って近位部に向かって成長し,右室枝は完全閉塞され,造影されなかった.留置したカテーテルを抜去後右冠状動脈入口部からの線溶療法を継続したところ,血栓は消失し,右室枝が再造影されるとともにSTは基線に復し,胸痛も消失した.したがって本例のV1~3のST上昇は右室虚血の反映と考えられた.このような右室虚血による心電図変化を通常の12誘導心電図にてとらえることができた理由としては,第1に責任冠状動脈病変部位が右室枝分枝部より末梢の右冠動脈にあったことから,下壁梗塞発症時には右室心筋は傷害されておらず,第2に右室虚血によるV1~3のST上昇は,通常併発する下壁虚血のreciprocal changeにより打ち消されると考えられるが,本例では下壁虚血による傷害電流のpeakが過ぎた時点で右室虚血を併発したため,V1~3のST上昇を捉えることができたと考えられた.
ISSN:0586-4488
2186-3016
DOI:10.11281/shinzo1969.20.8_967