症例 術中肺塞栓症で死亡したStanford A型解離性大動脈瘤の1例

血栓閉鎖型のStanford A型急性解離性大動脈瘤に対する上行大動脈人工血管置換術施行中に,致死的な肺塞栓症を生じた稀有な1例を経験した.患者は,発症後11日目に大動脈造影の際の穿刺側下肢に深部静脈血栓症を生じていたが,同時に起きた動脈瘤の切迫破裂のために,血栓溶解,抗凝固療法が行えないまま手術となった.本例の深部静脈血栓症の発症背景としては,安静臥位,カテーテル検査後の穿刺部の圧迫,また,深部静脈血栓の遊離と肺塞栓症の発症背景としては,術直前の降圧を目的とした血管拡張薬の大量投与,手術に伴う体位変換など,動脈瘤の治療に付随する処置が要因となっていた事が考えられた.今後,深部静脈血栓症を有し...

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Published in心臓 Vol. 24; no. 3; pp. 321 - 325
Main Authors 勝間田, 敬弘, 大越, 隆文, 冨澤, 康子, 江郷, 洋一, 三枝, 広文, 井口, 信雄, 内海, 素子, 中川, 真澄, 小林, 秀樹, 加藤, 辰也, 高橋, 早苗
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 公益財団法人 日本心臓財団 1992
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Summary:血栓閉鎖型のStanford A型急性解離性大動脈瘤に対する上行大動脈人工血管置換術施行中に,致死的な肺塞栓症を生じた稀有な1例を経験した.患者は,発症後11日目に大動脈造影の際の穿刺側下肢に深部静脈血栓症を生じていたが,同時に起きた動脈瘤の切迫破裂のために,血栓溶解,抗凝固療法が行えないまま手術となった.本例の深部静脈血栓症の発症背景としては,安静臥位,カテーテル検査後の穿刺部の圧迫,また,深部静脈血栓の遊離と肺塞栓症の発症背景としては,術直前の降圧を目的とした血管拡張薬の大量投与,手術に伴う体位変換など,動脈瘤の治療に付随する処置が要因となっていた事が考えられた.今後,深部静脈血栓症を有し,血栓溶解,抗凝固療法が行えない患者に手術を行う際には,予め,下大静脈内filterの挿入を行うなどの予防策が必要と考えられた.また,解離性大動脈瘤など,安静臥床が強いられる疾患を手術する場合,術前より下肢高挙,弾性靴下の装着,下肢マッサージ等の深部静脈血栓症に対する機械的予防策を行う必要があると思われた.さらに,術中肺塞栓が疑われた場合には,迷わず肺動脈造影を行い,可能な限り,体外循環下に塞栓子の摘除を行う事が肝要と思われた.
ISSN:0586-4488
2186-3016
DOI:10.11281/shinzo1969.24.3_321