エマージングインフェクションとしての高齢者感染症

新興・再興感染症の出現は, ヒト集団の存在様式 (生活様式, 環境, 医療内容など) の変化の中で, ヒトと微生物の共進化の結果として生ずる生態学的現象と言える. 高齢者集団の増加と, 医療的対応の変貌は, 新興・再興感染症出現の母地となっており, 新興感染症と捉えて新たな課題に対する監視体制と, 研究の継続が求められる. 高齢者に対する従来の侵襲的治療と抗菌薬の多用は, 一定の成果を上げてきたが, 一方でMRSAなどの耐性菌蔓延の温床となってきた. 高齢者集団の急増や, 定額医療や在宅医療推進などの高齢者医療の変革は, 在宅医療などにおける高齢者感染症対策の新たな課題を提供している. 感染症...

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Published in日本老年医学会雑誌 Vol. 36; no. 8; pp. 523 - 529
Main Author 稲松, 孝思
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 一般社団法人 日本老年医学会 25.08.1999
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Summary:新興・再興感染症の出現は, ヒト集団の存在様式 (生活様式, 環境, 医療内容など) の変化の中で, ヒトと微生物の共進化の結果として生ずる生態学的現象と言える. 高齢者集団の増加と, 医療的対応の変貌は, 新興・再興感染症出現の母地となっており, 新興感染症と捉えて新たな課題に対する監視体制と, 研究の継続が求められる. 高齢者に対する従来の侵襲的治療と抗菌薬の多用は, 一定の成果を上げてきたが, 一方でMRSAなどの耐性菌蔓延の温床となってきた. 高齢者集団の急増や, 定額医療や在宅医療推進などの高齢者医療の変革は, 在宅医療などにおける高齢者感染症対策の新たな課題を提供している. 感染症発症予防と早期診断早期治療の推進による高齢者のQOL維持に重点を置いた効率的な感染症対策を構築していく必要がある. 具体的には, インフルエンザワクチンの普及, 介護者に対する誤嚥性肺炎や褥瘡, 尿路感染などの予防処置の教育が求められる. また, 定額医療の中で, 早期診断に基づく抗菌薬の適正な選択と用量設定が求められる一方, 回復の見通しのない終末期感染に対しては, QOLを配慮した抗菌薬制限も考慮すべきであろう.
ISSN:0300-9173
DOI:10.3143/geriatrics.36.523