80歳以上の一見健常者における生体諸指標 その10年間にわたる変化
目的: 高齢者の生体諸指標の正常値は若年・壮年者と異なる可能性があり, その確立が待たれている. 本研究はこれら生体諸指標の内, 生理的に加齢とともに変化するものを同定することを目的とした. 対象: 慶應健康相談センタードックを10年以上の期間にわたり複数回受診した7,745例中, 1989年度の時点において80歳以上で日常生活が自立し, 重篤な疾患が存在しない“一見健常”者47例 (男28例, 女19例) を抽出した. この47例中1989年に受診した38例について, 生体諸指標の平均値を求めた. 更に47例の内常用薬のない男性17例で生体諸指標の70歳代における経時的変化を検討した. 結果...
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Published in | 日本老年医学会雑誌 Vol. 30; no. 8; pp. 698 - 704 |
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Main Authors | , , , , , |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
一般社団法人 日本老年医学会
01.08.1993
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Subjects | |
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ISSN | 0300-9173 |
DOI | 10.3143/geriatrics.30.698 |
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Summary: | 目的: 高齢者の生体諸指標の正常値は若年・壮年者と異なる可能性があり, その確立が待たれている. 本研究はこれら生体諸指標の内, 生理的に加齢とともに変化するものを同定することを目的とした. 対象: 慶應健康相談センタードックを10年以上の期間にわたり複数回受診した7,745例中, 1989年度の時点において80歳以上で日常生活が自立し, 重篤な疾患が存在しない“一見健常”者47例 (男28例, 女19例) を抽出した. この47例中1989年に受診した38例について, 生体諸指標の平均値を求めた. 更に47例の内常用薬のない男性17例で生体諸指標の70歳代における経時的変化を検討した. 結果:“一見健常”な症例中38例 (男25例, 女13例) では, ほぼすべてのパラメーターは加齢にかかわらず一般成人の正常範囲にあったが, この内15例で降圧剤を常用しており, この降圧剤治療の影響も考慮する必要がある. しかし, 重回帰分析からは, 難聴程度, Scheie 分類, 白内障の有無, HDL-コレステロール, 尿素窒素, 予測肺活量一秒率は増加し, 血清アルブミンは低下した. 機能的最大量を測定する指標である予測肺活量一秒率と難聴程度は, 標準偏差が加齢とともに小さくなり, この両者は生理的加齢変化を示す指標であるとともに, 健康であるためにはその値がある程度以上に保たれている必要があることが示唆された. 身体的所見に関しては, 白内障, 眼底の動脈硬化性病変がすでに65歳頃からほとんどの受診者に認められ, 耳朶皺襞も80歳になるとほぼ全例に出現しており, これらは生理的老化と考えられた. 結論: 健康高齢者においては, 生態計測値は一般成人の正常範囲内にあって, その加齢変化はきわめて緩やかであり, 健康者の加齢変化を検討するためには機能的最大量 (予備能) を示す指標や形態学的変化を示す指標で検討する必要がある. たとえ高齢者といえども, 生体計測値に異常が認められた場合には, 何らかの疾病による異常であると考えて対処するべきである. |
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ISSN: | 0300-9173 |
DOI: | 10.3143/geriatrics.30.698 |