老年者の不整脈 心房細動

心房細動 (AF) および期外収縮は加齢とともに有意に増加する. 過去10年間, 人間ドック検査を受けた約24万人の12誘導心電図の検討ではAF頻度は70歳以上の高齢者においては (男性2.5%, 女性0.3%) 若年者に比し有意に高かった. 老年科診療においてはAFはより高頻度にみられ, その治療は日常診療で大きな比重を占める. 高齢AF患者の3大基礎疾患は弁膜症, 高血圧性および虚血性心疾患であり, 10%は孤立性AFであった. AFでは統一ある心房収縮はなく, 心室充満および1回拍出量は主に急速充満に依存し, 後者はRR間隔および流入抵抗により規定される. Pulse Doppler 法...

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Published in日本老年医学会雑誌 Vol. 22; no. 4; pp. 325 - 333
Main Authors 伊藤, 栄一, 外畑, 巌, 山内, 一信, 都築, 雅人, 波多野, 潔, 野田, 省二
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 一般社団法人 日本老年医学会 01.07.1985
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ISSN0300-9173
DOI10.3143/geriatrics.22.325

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Summary:心房細動 (AF) および期外収縮は加齢とともに有意に増加する. 過去10年間, 人間ドック検査を受けた約24万人の12誘導心電図の検討ではAF頻度は70歳以上の高齢者においては (男性2.5%, 女性0.3%) 若年者に比し有意に高かった. 老年科診療においてはAFはより高頻度にみられ, その治療は日常診療で大きな比重を占める. 高齢AF患者の3大基礎疾患は弁膜症, 高血圧性および虚血性心疾患であり, 10%は孤立性AFであった. AFでは統一ある心房収縮はなく, 心室充満および1回拍出量は主に急速充満に依存し, 後者はRR間隔および流入抵抗により規定される. Pulse Doppler 法による研究では個々の患者では左室流入量および直続心拍の1回拍出量はRR間隔のみに依存するように思われ, RR間隔が個々の患者に固有の閾値より長い場合にはほぼ一定の値を示したが, R-R間隔が閾値以下となればその短縮に伴って直線的に減少した. R-R間隔閾値は左室流入抵抗に依存し, 僧帽弁狭窄症, 左室 compliance 低下症例では延長する. Pulse Doppler 法による検討では健常男性でも左室 compliance は加齢とともに低下することが示され, AFは, 有意な心疾患のない場合でも高齢者により大きな心血行力学的負担を課すると考えられる. 発作性AF患者の treadmill 試験ではAFは洞調律に比し著しく強い心拍数反応を示し, この過剰心拍数反応がAFでみられた運動時間短縮の原因と考えられた. Digitalis は運動に対する心拍数過剰反応を軽減し, 運動耐容能を有意に改善したが, 多くのAF患者で運動時心拍数はなお過多と思われた. Digitalis 維持投与下のAF患者に verapamil 80mgまたは diltiazem 60~90mgを1回経口投与後には運動時心拍数はさらに抑制され treadmill 運動時間は有意に延長した. しかしβ遮断薬は心拍数の高度抑制にもかかわらず有意な運動耐容能の改善を示めさなかった. Digitalis とこれらのCa拮抗薬との併用はAFの運動時心拍数コントロールに有効な治療と考えられた. 頭部CT検査を受けた急性脳血管障害患者432名の検討ではAFの頻度は, 脳出血に比し脳梗塞では有意に高かった (18.8% vs 2%). 脳血管写を受けた急性脳血管障害患者72名では, AF頻度は脳出血患者37名で2.7%, 脳血栓患者29名で20.7%, 脳塞栓患者5名で80%であり, 前2者に比し後者では有意に高かった. 脳血管写で確認した脳塞栓患者102名では73名がAFを示し, うち23名は孤立性AFであった. これらの所見は, 脳梗塞がAFの存在と密接に関連していることを示し, 孤立性AFも塞栓症の原因となりうることを示唆する. 脳塞栓の危険性の高い患者の同定およびその防止はAF患者の管理における緊急課題である.
ISSN:0300-9173
DOI:10.3143/geriatrics.22.325