日本文の処理におけるスクランブル効果の諸問題—Koizumi and Tamaoka(2004)に対するMiyamoto and Nakamura(2005)のコメントへの回答

Koizumi and Tamaoka(2004,以下KT)の実験結果に対して,Miyamoto and Nakamura(2005,以下MN)が寄せたコメントについて,3つの視点から回答した.第1に,KTの実験条件ではMNが指摘しているような再解析が起こらないことを示唆する経験的証拠を提示し,少なくともKTの実験においては,統語構造の複雑さが文正誤判断課題の反応時間と関係するという仮定が成り立つことを再確認した。第2に,頻度について,語彙,統語,共起の3種類があることを説明した.語彙頻度についてはKT(2004)の実験では比較条件で一様であるため,影響がない.統語頻度については,KTが使用し...

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Published in言語研究 Vol. 129; pp. 181 - 226
Main Authors 玉岡, 賀津雄, 小泉, 政利
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本言語学会 2006
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Summary:Koizumi and Tamaoka(2004,以下KT)の実験結果に対して,Miyamoto and Nakamura(2005,以下MN)が寄せたコメントについて,3つの視点から回答した.第1に,KTの実験条件ではMNが指摘しているような再解析が起こらないことを示唆する経験的証拠を提示し,少なくともKTの実験においては,統語構造の複雑さが文正誤判断課題の反応時間と関係するという仮定が成り立つことを再確認した。第2に,頻度について,語彙,統語,共起の3種類があることを説明した.語彙頻度についてはKT(2004)の実験では比較条件で一様であるため,影響がない.統語頻度については,KTが使用した実験刺激の頻度をMNが示している(MN, Table 2, p. 121)が,これが実験統制に用いられる通常の方法であるにもかかわらず,結果を不十分としているのは不適切な議論であることを指摘した.MNの文完成課題については,興味深い結果を得ているものの,オフラインの結果であるため,それを支持するためのオンラインの実験が必要であろう.共起頻度については,今後の研究を待つことになろう.第3に,文正誤判断課題と自己制御読みに関して,MN自身も指摘しているように,自己制御読みについては複雑な文でない限り有意なスクランブル効果が観察されていない.本稿では,近年行われた文正誤判断課題の実験がスクランブル効果を一貫して観察していることを示した.その上で,自己制御読み実験では,キー押しのための運動が文処理に影響すること,読みのために与えられる課題が「二重課題法」のように機能して,文処理以外に過度な記憶負荷をかけていることなどを指摘した.
ISSN:0024-3914
2185-6710
DOI:10.11435/gengo.129.0_181