より豊かな言語学をめざして

話しことばには,言語学,音声科学,会話研究のいずれでもカバーされていない広大な空白領域が残されている。本稿はこのことを,現代日本語の9個の現象を通して具体的に例示したものである。さらに,それらに対する筆者の同時代母語研究を通して,現在の言語学において自明視されている前提を検証した。検証対象とされたのは,伝達型コミュニケーション観(コミュニケーションを情報の伝え合いとする考え),唯文主義(談話を文の集まりとする考え),脱現場的言語観(言語を本質的に脱現場的なものとする考え),切り分け型の記号観(記号を意味も音韻形式も切り分けられたものとする考え)という4つの前提である。空白領域に進んで音声や会話...

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Published in言語研究 Vol. 167; pp. 1 - 25
Main Author 定延, 利之
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本言語学会 2025
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ISSN0024-3914
2185-6710
DOI10.11435/gengo.167.0_1

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Summary:話しことばには,言語学,音声科学,会話研究のいずれでもカバーされていない広大な空白領域が残されている。本稿はこのことを,現代日本語の9個の現象を通して具体的に例示したものである。さらに,それらに対する筆者の同時代母語研究を通して,現在の言語学において自明視されている前提を検証した。検証対象とされたのは,伝達型コミュニケーション観(コミュニケーションを情報の伝え合いとする考え),唯文主義(談話を文の集まりとする考え),脱現場的言語観(言語を本質的に脱現場的なものとする考え),切り分け型の記号観(記号を意味も音韻形式も切り分けられたものとする考え)という4つの前提である。空白領域に進んで音声や会話の研究者を呼び込む基本的なプラットフォームを構築するには,言語学者はこれらの前提が不当であり研究の障壁になっていないか,自覚的に検証し,必要があれば臆せず取り除いていくべきこと(そして実際その必要があること)を論じた。
ISSN:0024-3914
2185-6710
DOI:10.11435/gengo.167.0_1