耳管咽頭口閉鎖実験による鼓膜形態の変化 特に真珠腫発生について
中耳真珠腫, 特に上鼓室型真珠腫の成因に関しては, 古来幾多の説が述べられてきた。 Mckenzieに始まるEpidermoidTheory, Wendtに始まるMetaplasiaTheory, Habermannに代表されるEinwanderung Theorie, Langeの主張するImmigration Theory等, 枚挙に暇がない。通常, 私達が真珠腫に接する時には, 既に成熟した段階のものであり, その成因を説く為には, 発達過程の状態を発見する事が必要である。そしてその本質は, 如何にして外耳道扁平上皮が鼓室内へ侵入したか, 鼓室内の粘膜上皮が扁平角化上皮に変性したかにつき...
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Published in | 耳鼻咽喉科展望 Vol. 34; no. Supplement6; pp. 463 - 487 |
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Main Author | |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
耳鼻咽喉科展望会
15.10.1991
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ISSN | 0386-9687 1883-6429 |
DOI | 10.11453/orltokyo1958.34.Supplement6_463 |
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Summary: | 中耳真珠腫, 特に上鼓室型真珠腫の成因に関しては, 古来幾多の説が述べられてきた。 Mckenzieに始まるEpidermoidTheory, Wendtに始まるMetaplasiaTheory, Habermannに代表されるEinwanderung Theorie, Langeの主張するImmigration Theory等, 枚挙に暇がない。通常, 私達が真珠腫に接する時には, 既に成熟した段階のものであり, その成因を説く為には, 発達過程の状態を発見する事が必要である。そしてその本質は, 如何にして外耳道扁平上皮が鼓室内へ侵入したか, 鼓室内の粘膜上皮が扁平角化上皮に変性したかにつきる。この問題について, Berberichの報告以来数多くの実験が行われてきたが, 未だ結論を出す時期にはきていない。 しかしながら, 1891年Bezoldの報告以来, 耳管機能と真珠腫の成因には深い関連がある事は万人が認める事である。 この事より, 著者は健康家兎の耳管咽頭口を電気焼灼する事により, 閉塞を試み, 一定期間飼育後, 標本を作成し, 観察をした。使用した家兎は45匹, 88耳, 飼育期間は1日より6ヶ月である。 その結果, 27例は鼓膜穿孔を起こし, 化膿性中耳炎へと移行したが, 61例は鼓膜穿孔を認めず, その内9例は鼓膜の陥凹を認めた。 耳管咽頭口閉鎖後, 直ちに中耳腔内に滲出液の存在, 鼓室粘膜の浮腫, 肥厚を認め, その結果鼓室内が陰圧に成っている事が確認されると同時に, 鼓膜には内陥, 突出, 細胞増殖などが観察され, 特に弛緩部に著明である。飼育期間が長期に亘ると化膿性病変へと進行する例が多く, 滲出性中耳炎より化膿性中耳炎の移行が想定される。しかしながら, 一部の標本では, 長期間の飼育にも係らず, 鼓膜穿孔を起こさずに陥凹した病態を呈している。更にこの陥凹した鼓膜の外耳道側に多量の角化物の貯留を認め, 人の上鼓室真珠腫に極似している像を示している。家兎では, 人の鼓室に比べて, 上鼓室, 中鼓室の交通は良く乳突洞の発育もない。鼓膜弛緩部と緊張部の割合も人より大きく, この様な解剖的相違により, 耳管機能障害の影響がより強く鼓膜に現われるものと考えられる。 耳管機能不全が起きると, 中耳内には陰圧が惹起され, 滲出性中耳炎が引き起こされる。閉塞が強ければ, 鼓膜は穿孔を起こすが, 弱ければ, 鼓膜は弛緩部より内陥し, ここに強度の炎症が加われば化膿性病変へと進行し鼓膜穿孔を起こすと思われるが, 軽度の炎症の場合には, 弛緩部上皮の細胞活性は進みデ鼓膜外耳道側に角化物の堆積を見, 鼓膜の陥凹は更に促進され, 真珠腫形成へと進む。 以上より, 1次性真珠腫の成因につき, 次の様な結論を得た。 1) 人の上鼓室真珠腫と思われる病態を動物実験にて再現した。 2) 真珠腫の成立には耳管機能不全と炎症の存在が不可欠である。 3) 鼓膜の変化は, 耳管咽頭口を閉塞した際弛緩部に強く現われる。 4) 真珠腫は鼓膜穿孔のない鼓膜より発生するretractioncholesteatomaである。 |
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ISSN: | 0386-9687 1883-6429 |
DOI: | 10.11453/orltokyo1958.34.Supplement6_463 |