躍動する核酸医薬:試行錯誤の歴史を交えながら

アンチセンス医薬やsiRNA医薬に代表される核酸医薬はRNAのレベルで生体を制御できる点が特色であり, 急速に実用化が進んでいる. 対象疾患としては, 治療法に乏しい難治性疾患や遺伝性疾患に対する核酸医薬の開発が中心であるが, 近年では脂質代謝異常やがんなど, 対象患者の多い疾患に対する核酸医薬の臨床開発も活発化している. 核酸医薬は核酸モノマーが連結したオリゴヌクレオチドという共通の構造・性質を有すること, 化学合成により製造されること, 標的遺伝子の配列を基に有効性の高い化合物を短期間に選定できることなどから, ひとつのプラットフォームが完成すれば塩基配列を変えるだけで迅速に次の新薬を開発...

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Published in薬史学雑誌 Vol. 60; no. 1; p. 24
Main Author 井上 貴雄
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本薬史学会 30.06.2025
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ISSN0285-2314
2435-7529
DOI10.34531/jjhp.60.1_24

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Summary:アンチセンス医薬やsiRNA医薬に代表される核酸医薬はRNAのレベルで生体を制御できる点が特色であり, 急速に実用化が進んでいる. 対象疾患としては, 治療法に乏しい難治性疾患や遺伝性疾患に対する核酸医薬の開発が中心であるが, 近年では脂質代謝異常やがんなど, 対象患者の多い疾患に対する核酸医薬の臨床開発も活発化している. 核酸医薬は核酸モノマーが連結したオリゴヌクレオチドという共通の構造・性質を有すること, 化学合成により製造されること, 標的遺伝子の配列を基に有効性の高い化合物を短期間に選定できることなどから, ひとつのプラットフォームが完成すれば塩基配列を変えるだけで迅速に次の新薬を開発することが可能である. 実際に, 同一プラットフォームで開発された核酸医薬を含む20品目が2024年9月までに製造承認されている (https://www.nihs.go.jp/mtgt/pdf/section2-1.pdf) . このような核酸医薬の特徴は, 近年注目を集めているゲノム創薬や個別化医療の推進の観点から優位な特性であり, 今後, 医療領域における核酸医薬の存在感がますます大きくなっていくものと期待される. 核酸医薬の起源を仮に, 「オリゴヌクレオチドを用いて意図的に生体機能を制御する試み」と定義した場合, 1978年に発表されたアンチセンスによるRNAウイルスの複製阻害がその起源の一つと考えられる. それから20年の時を経た1998年, サイトメガロウイルス性網膜炎に対するアンチセンス医薬Vitraveneが世界初の核酸医薬として承認された. 同じ1998年には線虫C. elegansにおいて「RNAi」が発見されており, その20年後にあたる2018年に世界初のsiRNA医薬Onpattro (オンパットロ) が誕生している. このオンパットロは脂質ナノ粒子に封入された製剤であり, 送達キャリアに搭載された初めての核酸医薬としても注目された. 脂質ナノ粒子はその後, 新型コロナウイルス感染症のmRNAワクチンにおいても活用され, 現在, 最も注目されている送達キャリアとなっている. 本講演では, 以上のような核酸医薬の歴史を織り交ぜながら, 躍動する核酸医薬の現在 (いま) を紹介するとともに, その未来を展望したい.
ISSN:0285-2314
2435-7529
DOI:10.34531/jjhp.60.1_24