平安の薫物侍従に配合される熟欝金について

「1. はじめに」『源氏物語』の箒木の帖に, 光源氏が空蝉の部屋に夜這いしたとき, 空蝉の侍女が源氏を匂いで識別したという一節がある. 複数の香料を配合して造った練香 (薫物) を薫き込んだ衣服から発する衣香に言及し, 平安貴族にとって日常の習慣であった. 上流貴族の間ではさまざまな薫物を持ち込んで香りの優劣を競う "薫物合わせ" という遊戯も流行した. 梅枝の帖では, 源氏主催の薫物合わせに4種の薫物が登場するほか, 承和の方・百歩の方など専門性の高い薫物にも言及する. このうちの侍従・荷葉という薫物は熟欝金という聞きなれない香料を配合するが, 『拾芥抄』が沈香などととも...

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Published in薬史学雑誌 Vol. 60; no. 1; pp. 1 - 5
Main Author 木下 武司
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本薬史学会 30.06.2025
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ISSN0285-2314
2435-7529
DOI10.34531/jjhp.60.1_1

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Summary:「1. はじめに」『源氏物語』の箒木の帖に, 光源氏が空蝉の部屋に夜這いしたとき, 空蝉の侍女が源氏を匂いで識別したという一節がある. 複数の香料を配合して造った練香 (薫物) を薫き込んだ衣服から発する衣香に言及し, 平安貴族にとって日常の習慣であった. 上流貴族の間ではさまざまな薫物を持ち込んで香りの優劣を競う "薫物合わせ" という遊戯も流行した. 梅枝の帖では, 源氏主催の薫物合わせに4種の薫物が登場するほか, 承和の方・百歩の方など専門性の高い薫物にも言及する. このうちの侍従・荷葉という薫物は熟欝金という聞きなれない香料を配合するが, 『拾芥抄』が沈香などとともに "五香" に列挙するほどのステータスの高い香料であった (下巻寳貨部第廿六) .
ISSN:0285-2314
2435-7529
DOI:10.34531/jjhp.60.1_1