群落光合成の半経験的評価法の一改良

群落光合成量を評価する半経験理論のなかに植被層内での葉の光合成機能 (葉内と葉外とにおける炭酸ガス交換を支配している積分交換係数Dcに代表される) と炭酸ガス濃度の高度変化を考慮することが試みられた。まず第一につぎのような仮定がなされた: 1: 植被各層の葉の光合成曲線はレベルの大小を除いて, その形は余り大きく変化しない, 2: 光合成曲線のレベルはいわゆる光飽和値によつてきめられている, 3: CO2濃度のある範囲内 (0~900PPM) で光飽和値はつぎのようになると考える p∞=DcC DcとCはつぎのように近似された, Dc=DcH+βF, C=CH+γF, 4: 植被層内での光強度...

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Published in農業気象 Vol. 22; no. 1; pp. 15 - 22
Main Author 内島, 善兵衛
Format Journal Article
LanguageEnglish
Japanese
Published 日本農業気象学会 1966
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Summary:群落光合成量を評価する半経験理論のなかに植被層内での葉の光合成機能 (葉内と葉外とにおける炭酸ガス交換を支配している積分交換係数Dcに代表される) と炭酸ガス濃度の高度変化を考慮することが試みられた。まず第一につぎのような仮定がなされた: 1: 植被各層の葉の光合成曲線はレベルの大小を除いて, その形は余り大きく変化しない, 2: 光合成曲線のレベルはいわゆる光飽和値によつてきめられている, 3: CO2濃度のある範囲内 (0~900PPM) で光飽和値はつぎのようになると考える p∞=DcC DcとCはつぎのように近似された, Dc=DcH+βF, C=CH+γF, 4: 植被層内での光強度の減少はつぎのような逆数法則に従う I=IH(1+αF)-1. これらの仮定から群落の全光合成量ならびに純光合成量は (12), (15) 式のように表わされることがわかつた。これらの半経験的理論からの結果を要約するとつぎのようになる: 1: βとγとの絶対値がますにつれて, 植被層内での光飽和値の減少は次第に急になり下層の葉の光飽和値は著しく小さくなることがわかつた (第3図参照)。これは光飽和値一定という仮定の正しくないことを示している。指数モデルと逆数モデルとの差異は|β|の小さいほど増大し, 特に葉面積深さの大きい範囲で若干大きくなる。 2: 植物群落の全光合成量に対する植被上面での積分交換係数 (DcH) と炭酸ガス濃度 (CH) ならびにそれらの植被内での傾度 (β, γ) の影響が数値的にしらべられた (第4図参照)。植被上面での2量の値は各々顕著な影響を全光合成量に与えるが, 葉の光合成機能の強度の指標であるDcHの影響がより著しいことがわかつた。また, DcHの勾配は群落の全光合成量に顕著な影響を与えるが, Cの勾配は殆んど影響を与えないことがわかつた。これは群落光合成の研究で, 植被内の炭酸ガス濃度は一定と考えてよいことを意味している。 3: 最適群落密度の目安すである最適葉面積指数は (17) 式で与えられる。最適葉面積指数ならびに最大純光合成量が日射ならびにDcの勾配βの函数として第5図に示されている。FoptとPNとは共に|β|の増加につれて減少するが, 減少率は日射強度の大きいほど高いことがわかつた。これは植被内におけるDcの勾配が現在までいわれている光の消散係数とならんで群落の光合成量を支配している非常に重要な因子であることを物語つている。 4: 群落光合成量に対する炭酸ガス濃度と日射強度との影響を明らかにするために (12) 式が利用され, その結果が第6図に示されている。炭酸ガス濃度の高まりにつれて全光合成量は増すが, その増加率は日射強度に関係し, (18) 式にて表わされた。炭酸ガスの使用効率は日射の増加につれてある値に漸近することがわかつた。 以上説明した結果は多くの仮定にもとづいているのでまだ不十分な点が多いが, 植被の生産構造の解析にあたつて物理的特徴である葉の配置・密度とならんで植被内気層の乱流状態と気孔抵抗・葉の光合成機能に関係しているDcを考慮しなければならないことを示している。ここに説明した近似的な半経験理論を改良するには, まず逆数モデルの改良・葉内での光強度分布のより実体的モデルの導入・Dcの分布形の改良などが必要である。これらの理論的研究と平行して, 植被層内での光の減衰・乱れの特徴・葉令別面積の分布形の決定・Dcの測定などの実験的研究がなされてねばならない。
ISSN:0021-8588
1881-0136
DOI:10.2480/agrmet.22.15