文化財の保存・展示環境におけるNO2濃度と染織布の変退色へのその影響

文化財の保存において最も影響を与えている大気環境因子の一つであるNO2の影響に着目して検討した。博物館・美術館等の環境中のNO2濃度を把握すると共に,そうした環境での染織布への影響をドース・レスポンス特性の観点から検討するために耐候試験を実施した。博物館・美術館の屋内外19地点において,受動型捕集器を用いてNO2の月平均値を一年間にわたって測定した。年平均値は,屋外で20-60ppb,展示室内7-20ppb,展示ケース内2-7ppbであった。空調設備は,NO2濃度を低下させるのに有用であり,特に活性炭フィルターの効果は顕著であった。伝統的な収蔵施設である土蔵では,空調設備がなくても年間6ppb...

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Published in環境科学会誌 Vol. 3; no. 2; pp. 111 - 120
Main Authors 芳住, 邦雄, 斉藤, 昌子, 柏木, 希介, 門倉, 武夫
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 社団法人 環境科学会 1990
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Summary:文化財の保存において最も影響を与えている大気環境因子の一つであるNO2の影響に着目して検討した。博物館・美術館等の環境中のNO2濃度を把握すると共に,そうした環境での染織布への影響をドース・レスポンス特性の観点から検討するために耐候試験を実施した。博物館・美術館の屋内外19地点において,受動型捕集器を用いてNO2の月平均値を一年間にわたって測定した。年平均値は,屋外で20-60ppb,展示室内7-20ppb,展示ケース内2-7ppbであった。空調設備は,NO2濃度を低下させるのに有用であり,特に活性炭フィルターの効果は顕著であった。伝統的な収蔵施設である土蔵では,空調設備がなくても年間6ppb程度と低濃度であった。蘇芳,日本茜,楊梅の主成分であるブラジリン,プルプリン,ミリセチンおよび五倍子のタンニンを用いて綿布および絹布を染色して前述の環境に暴露した。8カ所で得られたNO2ドースと色差△Eとの関係を各染色布ごとに求めると,一つの特性曲線で表わされることが明らかとなった。絹布におけるよりも綿布での変退色がいずれの場合にも顕著であるという基質の影響が認められた。この結果は,NO2の酸化力によって変退色が進むことを示唆しているものと考えられた。最も変退色が著しかったタンニンについては,NO2の酸としての作用も寄与していると考えられた。
ISSN:0915-0048
1884-5029
DOI:10.11353/sesj1988.3.111