胃全摘除後の愁訴, 特に糖嗜好性に関する研究 血糖, 血中インスリンおよび血中グルカゴンの変動を中心に

胃全摘除後の種々の物質代謝に関する報告は多くみられるが, 社会復帰している患者において愁訴を中心とした, 特に食餌嗜好性の変化から物質代謝を論じたものは少ないようである.今回, 術前に既往歴や家族歴に特に問題がなく, 術後経過も良好でダンピング症候群などもなく, かつ術後1年以上を経過した胃全摘除者に対し, 食生活につきアンケート調査を行うとともに, ブドウ糖負荷試験を行い, 血糖値, 血中インスリン値, 血中グルカゴン値を経時的に測定することにより, 胃全摘除後の食餌嗜好性について検討した.対象はアンケート調査に協力が得られた胃切除症例の106例である.そのうち, 胃全摘除例は21例であり,...

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Published in昭和医学会雑誌 Vol. 42; no. 3; pp. 363 - 371
Main Authors 片岡, 徹, 石井, 淳一, 鈴木, 親良, 舟木, 正朋
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 昭和大学学士会 01.06.1982
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ISSN0037-4342
2185-0976
DOI10.14930/jsma1939.42.363

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Summary:胃全摘除後の種々の物質代謝に関する報告は多くみられるが, 社会復帰している患者において愁訴を中心とした, 特に食餌嗜好性の変化から物質代謝を論じたものは少ないようである.今回, 術前に既往歴や家族歴に特に問題がなく, 術後経過も良好でダンピング症候群などもなく, かつ術後1年以上を経過した胃全摘除者に対し, 食生活につきアンケート調査を行うとともに, ブドウ糖負荷試験を行い, 血糖値, 血中インスリン値, 血中グルカゴン値を経時的に測定することにより, 胃全摘除後の食餌嗜好性について検討した.対象はアンケート調査に協力が得られた胃切除症例の106例である.そのうち, 胃全摘除例は21例であり, 再建法はRoux-Y法8例, Double Tract法8例, Interposition法3例, Billroth II法2例である.なお幽門側胃部分切除症例85例をコントロールとし, それらの再建法はBillroth I法68例, Billroth II法17例である.胃切除例106例の年齢は26歳から82歳 (平均51歳) , 男女比は2: 1であった.その結果以下の知見が得られた.アンケート調査によると胃全摘除者の大部分で術前に比べ食餌摂取量の絶対的減少が存在し, その減少した症例においては94%に何らかの食餌嗜好の変化をきたしており, 特に甘味を好む傾向が認められた.甘味嗜好性についてOGTTより検討すると, 糖負荷後90分以降において術前より甘味嗜好が増加した甘味嗜好(+)群では血糖値に対してインスリン過剰反応の状態にあることが推測された.さらに血中グルカゴン値は甘味嗜好(+)群が, 負荷後90分以降で術前と比べ甘味嗜好に変化のない(-)群に比べ高値で経過していた.これを負荷前値と負荷後の血中グルカゴン値の差 (ΔGI) と血中インスリン値の差 (ΔlRI) との比 (ΔGI/ΔlRI比) でみると, 甘味嗜好(+)群は(-)群に比べ高グルカゴン反応にあると推測された.また, 甘味嗜好性と胃全摘除後の再建術式との関係を総合的にみると, Interposi-tion法, Double Tract法の方が, Roux-Y法に比べ若干甘味嗜好が強い傾向にあると考えられた.以上の胃全摘除後の甘味 (糖) 嗜好性の変化にはインスリン, 膵グルカゴンなどの因子が関与していることが推測されるが, gastric inhibitory peptide (GIP) などの消化管ホルモンによる消化管を介する因子からの検討も必要と考えられた.
ISSN:0037-4342
2185-0976
DOI:10.14930/jsma1939.42.363