早期胃癌の予後を左右する因子に関する臨床病理学的研究 累積生存率および相対生存率による10年生存率からみて

外科治療成績がきわめて良好な早期胃癌の中にも再発をきたす症例に遭遇することがしばしばある.今回, 早期胃癌の予後を左右する因子について, 遠隔成績からみて臨床病理学的検討を行った.早期胃癌でも5年以上経過後の晩期再発例を経験することから, 10年生存率をもって検討し, 生存率の算出法としては粗生存率の累積生存率と年齢および性を考慮した相対生存率を用いた.対象とした症例は, 教室で過去約23年間 (1956.3~1978.12) に切除された初発早期胃癌症例178例 (全切除胃癌928例の19.2%に当る) であるが, 以下の検討に際しては多発癌症例14例と断端陽性症例3例を除外した161例を用...

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Published in昭和医学会雑誌 Vol. 42; no. 3; pp. 347 - 361
Main Authors 河村, 一敏, 片岡, 徹, 河村, 正敏, 石井, 淳一
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 昭和大学学士会 01.06.1982
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Summary:外科治療成績がきわめて良好な早期胃癌の中にも再発をきたす症例に遭遇することがしばしばある.今回, 早期胃癌の予後を左右する因子について, 遠隔成績からみて臨床病理学的検討を行った.早期胃癌でも5年以上経過後の晩期再発例を経験することから, 10年生存率をもって検討し, 生存率の算出法としては粗生存率の累積生存率と年齢および性を考慮した相対生存率を用いた.対象とした症例は, 教室で過去約23年間 (1956.3~1978.12) に切除された初発早期胃癌症例178例 (全切除胃癌928例の19.2%に当る) であるが, 以下の検討に際しては多発癌症例14例と断端陽性症例3例を除外した161例を用いた.年齢は26~76歳 (平均年齢54.3歳) , 男女比は1.2: 1である.早期胃癌の予後を左右すると考えられる10因子, すなわち年齢, 性, 占居部位, 大きさ (長径) , 肉眼型, 深達度, 組織型, 脈管侵襲・リンパ節転移, 浸潤増殖様式 (INF) について検討し, 以下の結果を得た.累積生存率で有意差がみられたのは年齢, 組織型, 浸潤増殖様式および脈管侵襲の4因子であった.相対生存率では有意差の検定が厳しく, 脈管侵襲のみに有意差がみられた.しかしながら, 有意差のみられなかった他因子においても, 占居部位, 肉眼型, 深達度, リンパ節転移の有無は諸家の報告および著者らの検討からも, 早期胃癌の予後を左右する因子として重要な意味を持っているとの結論を得た.再発の危険を目一杯背負った早期胃癌の典型像とは, 若年者, 占居部位がA, 肉眼型が混合型 (陥凹+隆起: IIc+IIa) , 深達度がsm, 組織型が高分化型, 脈管侵襲およびリンパ節転移陽性, 浸潤増殖様式がα~βである症例と推測された.これら再発への危険因子を多く有する患者に対しては, 手術においてリンパ節郭清を徹底 (郭清度R3) するとともに, 患者の状況が許せば術後に十分な補助療法が望まれる.また, 早期胃癌の術後死亡例を検討したところ, 161例中26例 (16.1%) が死亡し, 他病死例が17例と, 全死亡例の実に65.4%を占め, 癌再発は7例 (26.9%) , 手術直接死亡2例 (7.7%) であった.他病死では脳血管障害, 心疾患などの成人病が多く, 術後のfollow upに際して十分な配慮が必要となる.再発症例の再発形式としては, 肝再発を中心とする血行性再発が多く, 7例中5例に認められ, 再発時期としては3年を少し超えるものが多かった.m癌の再発を1例経験した.症例は39歳の男性, A, IIc+IIa, tub1, β, v (+) で, 術後5年3か月で骨およびリンパ節再発で死亡した.この症例は著者らが結論した早期胃癌の予後不良因子をほとんど併せ持っており非常に興味深かった.
ISSN:0037-4342
2185-0976
DOI:10.14930/jsma1939.42.347