若者の移行経験にみるローカリティ 仕事,家族,地元のリアリティをめぐる社会=空間的アプローチの可能性

本稿は,ある地方の田舎町で暮らす高卒男性の事例から,移行過程のリアリティが組織化される側面を,空間をめぐる彼らの解釈活動に焦点を当てて考察した。  近年の地方の若者に関する研究は,「地方」を若者の経験から切り離して定義することで若者の移行経験のリアリティのある側面を看過してきた。本稿は,社会理論の空間論的転回や「若者文化の地理学」,文化人類学のローカリティ論に着想を得,若者の社会生活の経験と彼らが暮らす場所に関する表象との相互構成性に着目した記述を試みた。  調査協力者らは,地域の男性労働を支えた建設業に固有の言説と光景を彼らなりに再演したり,非ローカルな都市の生活イメージとの差異化を通じて自...

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Published inKyōiku shakaigaku kenkyū Vol. 102; pp. 57 - 77
Main Author 尾川, 満宏
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published Tokyo 日本教育社会学会 31.05.2018
Nihon Kyoiku Shakai Gakkai
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Summary:本稿は,ある地方の田舎町で暮らす高卒男性の事例から,移行過程のリアリティが組織化される側面を,空間をめぐる彼らの解釈活動に焦点を当てて考察した。  近年の地方の若者に関する研究は,「地方」を若者の経験から切り離して定義することで若者の移行経験のリアリティのある側面を看過してきた。本稿は,社会理論の空間論的転回や「若者文化の地理学」,文化人類学のローカリティ論に着想を得,若者の社会生活の経験と彼らが暮らす場所に関する表象との相互構成性に着目した記述を試みた。  調査協力者らは,地域の男性労働を支えた建設業に固有の言説と光景を彼らなりに再演したり,非ローカルな都市の生活イメージとの差異化を通じて自身の地域をローカル化したりして,想像された地域労働市場に適合的な職業キャリアや仕事と家族生活の調整を展望していた。これらは,彼らが地域の社会構造との交渉を通じて自身の経験を意味づけるコンテクストを生産し,自らをローカルな主体に位置づける営みだった。  以上の記述=解釈から,若者の移行経験のリアリティを,地域の構造的諸特性への適応や交渉を通じたローカリティの社会的達成,すなわち職業移行や家族形成にとどまらない社会化の問題として探究する可能性が示唆された。若者の社会生活と空間の相互構成性に着目する社会=空間的アプローチはそのための有用な戦略であり,若者研究を新たな段階に移行させるかもしれない。
Bibliography:ObjectType-Article-1
SourceType-Scholarly Journals-1
ObjectType-Feature-2
content type line 14
ISSN:0387-3145
2185-0186
DOI:10.11151/eds.102.57