介護サービス市場における情報の非対称性とサービスの質 介護サービス供給政策の比較静学分析とその実験経済学的検証

我が国では、基本的な福祉サービスの1分野である介護サービスの配分も市場原理に委ねられている。この理由は、営利企業の参入も認められた同市場で、事業者間の競争がサービスの効率的生産をもたらすと同時に、そのサービスの質的向上が図られると期待されたからである。しかし、市場にサービスの質を識別できない消費者が一定割合存在するのならば、彼らを顧客とする事業者が現れ、そして、生き残る可能性は存在する。本稿は、高い質のサービスを提供する事業者と低い質のサービスを提供する事業者が混在する市場において、どのような政策を実施すれば市場に出回るサービスの質を向上させることができるのかを理論的に考察すると同時に、実験に...

Full description

Saved in:
Bibliographic Details
Published in医療経済研究 Vol. 19; no. 3; pp. 253 - 270
Main Authors 鎌田, 繁則, 赤木, 博文, 稲垣, 秀夫, 森, 徹
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 医療経済学会/医療経済研究機構 2008
Subjects
Online AccessGet full text
ISSN1340-895X
2759-4017
DOI10.24742/jhep.2007.15

Cover

More Information
Summary:我が国では、基本的な福祉サービスの1分野である介護サービスの配分も市場原理に委ねられている。この理由は、営利企業の参入も認められた同市場で、事業者間の競争がサービスの効率的生産をもたらすと同時に、そのサービスの質的向上が図られると期待されたからである。しかし、市場にサービスの質を識別できない消費者が一定割合存在するのならば、彼らを顧客とする事業者が現れ、そして、生き残る可能性は存在する。本稿は、高い質のサービスを提供する事業者と低い質のサービスを提供する事業者が混在する市場において、どのような政策を実施すれば市場に出回るサービスの質を向上させることができるのかを理論的に考察すると同時に、実験によって検証して、その政策効果を確かめた。分析の結果、有効な政策としては、1)介護サービス報酬単価の引き上げ、2)高い質を生産する事業者の生産費用を引き下げるための環境整備、そして、3)低い質のサービスを生産する事業者の生産費用を引き上げるための規制が考えられる。従来の研究では、特定の制度や特別の監視機能の設置によって市場に出回るサービスの質の向上を図ることを主張するものが多かったが、これに対して、本稿では、現実の介護保険制度を想定して価格規制は前提とするものの、事業者の報酬単価や生産費用など市場の外部環境を政府が適切に整えることによって市場に出回るサービスの質を改善できるかどうかを検証している。これは利潤最大化を目指す事業者の自発的な行動の結果である点で、これまで出されてきた先駆的研究とは異なるものである。なお本稿の付録には、本論で得られた比較静学結果の現実的有効性を確かめるために行われた実験結果の概要を掲載した。この実験は、学生を被験者とした再現実験で、被験者には事業者として、市場に質の識別能力に欠ける消費者が常に一定割合存在する場合に、自分が高低2つの質のサービスのうちどちらのサービス供給するのかを選択するものである。介護報酬単価やサービスの生産費用の設定を変えて繰り返し実験した結果、ほぼ理論通りの結果が再現された。
ISSN:1340-895X
2759-4017
DOI:10.24742/jhep.2007.15