小児滲出性中耳炎の中耳粘膜病態と治癒過程 実験的ならびに臨床的研究
小児の滲出性中耳炎は,大半が自然治癒するが,長期間遷延する難治症例も存在する.自然治癒例と難治例がどのような経過および病態の差で生じるかはいまだ不明であり,この点を理解することは,治療上非常に重要である.私は,小児滲出性中耳炎の病態には中耳粘膜の病理組織学的変化が大きく関与していると考え,滲出性甲耳炎例の中耳粘膜を病理組織学的に検討し,滲出性中耳炎治療前およぴ治療後の乳突蜂巣発育度,中耳含気腔容積および中耳換気チューブ抜去後の経過か,中耳粘膜の組織学的変化にどのように関連するかを考察した.また,家兎を用いて,耳管咽頭口を閉塞し実験的滲出性中耳炎を作製し,中耳粘膜上皮および上皮下層の組織学的変化...
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Published in | 日本耳鼻咽喉科学会会報 Vol. 101; no. 8; pp. 1000 - 1011 |
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Main Author | |
Format | Journal Article |
Language | English Japanese |
Published |
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
20.08.1998
日本耳鼻咽喉科学会 |
Subjects | |
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ISSN | 0030-6622 1883-0854 |
DOI | 10.3950/jibiinkoka.101.8_1000 |
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Summary: | 小児の滲出性中耳炎は,大半が自然治癒するが,長期間遷延する難治症例も存在する.自然治癒例と難治例がどのような経過および病態の差で生じるかはいまだ不明であり,この点を理解することは,治療上非常に重要である.私は,小児滲出性中耳炎の病態には中耳粘膜の病理組織学的変化が大きく関与していると考え,滲出性甲耳炎例の中耳粘膜を病理組織学的に検討し,滲出性中耳炎治療前およぴ治療後の乳突蜂巣発育度,中耳含気腔容積および中耳換気チューブ抜去後の経過か,中耳粘膜の組織学的変化にどのように関連するかを考察した.また,家兎を用いて,耳管咽頭口を閉塞し実験的滲出性中耳炎を作製し,中耳粘膜上皮および上皮下層の組織学的変化を臨床例の中耳粘膜変化と比較検討した. 結果は,臨床例では,中耳換気チューブ留置術を施行した小児滲出性中耳炎64例87側を対象に,中耳粘膜を採取し,粘膜の変化を上皮層および上皮下層に分けて分類した.中耳粘膜が炎症早期の軽度炎症例では術後12ヵ月の早期に,炎症遷延例でも18ヵ月後には乳突蜂巣の再気胞化が認められた.また,チューブ留置期間18ヵ月末満症例では,予後不良例は30%で,その半数が中耳粘膜の炎症遷低群であった.一方,18ヵ月以上留置した症例では予後不良例11%と再発率は減少したが,18ヵ月以上挿入したにもかかわらず再発した症例の中耳粘膜上皮下層は,全例炎症遷延群であった.以上の結果より,術後18ヵ月以上経過すると含気腔は形態的に正常に近づくが,治癒過程には中耳粘膜,特に上皮下層の病変度が強く関与すると考えられた.また,実験的滲出性中耳炎の中耳粘膜上皮下層では初期には浮腫状肥厚や血管の拡張が認められたが,経過とともに線維化傾向が強く認められ,その後この病変はなかなか改善しにくい傾向を示していた.この傾向は臨床で観察された粘膜上皮下層の組織学的変化と同様の結果であった. |
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ISSN: | 0030-6622 1883-0854 |
DOI: | 10.3950/jibiinkoka.101.8_1000 |