臨床研究に参加する患者に金銭を支払うことの倫理性に関する文献的研究

I「緒言」日本では1990年代の後半以後, 治験の活性化が図られるようになった. 治験の科学性と信頼性とともに倫理性の確保も図られ, 平成9年には医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令(厚生省, 1997)が施行された. 治験の謝金についても, 平成10年には厚生労働科学研究費補助金取扱細則(厚生省, 1998)が, また平成11年に「受託研究費の算定要領の一部改正について」(厚生省, 1999)が出されるなど環境が整備されてきた. しかし研究参加者に金品を支払うことについては, 倫理的な観点から批判も少なくない. 伝統的な議論は, 金品が対象者の参加についての自発的意志決定に悪影響を与える...

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Published in民族衛生 Vol. 72; no. 3; pp. 89 - 100
Main Author 井原一成
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本民族衛生学会 2006
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ISSN0368-9395

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Summary:I「緒言」日本では1990年代の後半以後, 治験の活性化が図られるようになった. 治験の科学性と信頼性とともに倫理性の確保も図られ, 平成9年には医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令(厚生省, 1997)が施行された. 治験の謝金についても, 平成10年には厚生労働科学研究費補助金取扱細則(厚生省, 1998)が, また平成11年に「受託研究費の算定要領の一部改正について」(厚生省, 1999)が出されるなど環境が整備されてきた. しかし研究参加者に金品を支払うことについては, 倫理的な観点から批判も少なくない. 伝統的な議論は, 金品が対象者の参加についての自発的意志決定に悪影響を与える可能性がある, というものである. つまり, 金品の支払いがなければ本来その研究に参加しない人が, 金品が支払われた結果研究に参加する, 不当な誘導(undue inducement)に対する懸念が指摘されている. 支払いについての倫理問題に関する研究は, 米国を中心に進んできた. 1980年以後, Macklin(1981)の研究を嚆矢として議論が発展した.
ISSN:0368-9395