男らしさ〉の夢と憂鬱 安岡章太郎『陰気な愉しみ』

• Published in: 日本近代文学 Vol. 103; pp. 46 - 61
• Main Author: 安藤, 陽平
• Format: Journal Article
• Language: Japanese
• Published: 日本近代文学会 15.11.2020
• Subjects: ジェンダー; 占領; 敗戦; 男らしさ; 軍隊
• ISSN: 0549-3749; 2424-1482
• DOI: 10.19018/nihonkindaibungaku.103.0_46

安岡章太郎『陰気な愉しみ』の「私」は、軍隊で〈男〉としての「欠陥」を自覚し、「劣等感」を抱く人物である。「私」は、「欠陥」・「劣等感」から目を背けたり、〈男らしさ〉を構築しようとしたりする。だが本作は、そうした「私」の行動が次々と失敗してゆくさまを描きとる。あるいは、〈男らしさ〉構築の末にむしろ落胆する「私」の姿を呈示する。そうした展開を重視することで、〈男らしさ〉の価値を相対化する作品として本作を解釈できる。同時代では、敗戦─占領による男性の敗北感や屈辱を〈去勢〉などのメタファーであらわすレトリックが流通していた。本作は、それに近接しつつもきわどく距離を取り、批判的な位置についているのである。