発展途上国の教育問題
本稿は発展途上諸国の教育について, その実態と問題を探ぐることを意図している.各国の教育は, それぞれの国の歴史・文化・社会に深く根ざしているため, 多種多様であるが, ここでは, アジア, アフリカ, ラテンアメリカの地域にわけて考察しているが, とくにアジアは世界人口の58パーセントを有する地域であり, 宗教も経済水準も異っているため, 三つに分けて述べている. 1960年代は, 途上地域にとって楽天的気風の溢った時期であった.インドが“国民の繁栄, 幸福, 安全を決定するのは教育である” (インド教育委員会) と宣言したのは, その気風の代表的事例である.同じ時期, アフリカ地域はユネス...
Saved in:
Published in | 熱帯農業 Vol. 31; no. 3; pp. 185 - 196 |
---|---|
Main Author | |
Format | Journal Article |
Language | English Japanese |
Published |
日本熱帯農業学会
01.09.1987
|
Online Access | Get full text |
ISSN | 0021-5260 2185-0259 |
DOI | 10.11248/jsta1957.31.185 |
Cover
Summary: | 本稿は発展途上諸国の教育について, その実態と問題を探ぐることを意図している.各国の教育は, それぞれの国の歴史・文化・社会に深く根ざしているため, 多種多様であるが, ここでは, アジア, アフリカ, ラテンアメリカの地域にわけて考察しているが, とくにアジアは世界人口の58パーセントを有する地域であり, 宗教も経済水準も異っているため, 三つに分けて述べている. 1960年代は, 途上地域にとって楽天的気風の溢った時期であった.インドが“国民の繁栄, 幸福, 安全を決定するのは教育である” (インド教育委員会) と宣言したのは, その気風の代表的事例である.同じ時期, アフリカ地域はユネスコの主催で, アジスアババ会議を開き, 1980年までに初等義務教育制度を樹立する――という壮大な計画を発表した.アジアもラテンアメリカも同種の会議をもって呼応した.国づくりの基礎は人づくりであるという明るい夢であった.この夢はどのように実現されたか. 国連は1970年, 「第2次開発の10年」を策定した.ほどなくオイルショックの大寒波.途上国の教育開発は大部分頓挫した.教育的蓄積のない国にとって, 教育財政支出はただでさえ困難であったのである.この沈滞の70年代は, そのまま80年度に続く. 東アジアは, このなかにあってもっとも躍進の著るしい地域であった.中等教育以上の整備が中心課題東南アジアも, インドシナ3国をのぞくと初等教育の拡充は目標に達した.インドを主とする南西アジアは, 中東・アラブ地域と同様, 1/4の子どもは小学校に行っていないし, 大人の3/4は文盲である.しかも女子の就学が大巾に遅れているが, これは女子教員が極度に少ないことの悪循環である.学校に子どもをやるとイスラム教を捨てるようになると心配する親も少くない. アフリカの教育は, やうやく25年の歴史をもつにすぎない.学校へ行くことが就業上, ほとんど利得を斉らさないことが問題. ラテンアメリカの教育開発では, 都市と地方の格差がいっこうに解消されない点が重要.庶民教育を放っておいて, 都市の高等教育ばかりが追い求められる.ブラジルのドロップ・アウトは驚くばかりである.本稿は以上のなかで, 先進諸国のすでに失ってしまい, 途上国にはいまもあるよきものの存在にも想いを馳せている. |
---|---|
ISSN: | 0021-5260 2185-0259 |
DOI: | 10.11248/jsta1957.31.185 |